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日本再生可能エネルギー総合研究所は、再生可能エネルギー普及のための情報収集と発信を行っています。

リポートReport

 2013. 7.24 ドイツ視察ツアー報告2
          再生エネで稼ぐ町の作り方(下)

                                    

(上)のおさらい 

 再生エネ総研主催のドイツ視察ツアー報告として、今回も再生エネで500%の電力を生み出す町を取り上げます。ドイツバイエルン州の南西の端、人口わずか2500の町ヴィルトポルズリートです。20年も前から再生エネ導入を始め、今では、以下のような成果をあげています。

ヴィルトポルズリートの取り組み

エネルギー

規模

特徴

風力

12MW

市民風車

太陽光

4MW

200か所(公共390kW)

太陽熱

1900㎡

140か所

バイオガス(発酵)

1.5MW

4か所、町の暖房利用あり

小水力

58kW

3か所

プラスエネルギーハウス

 

スポーツホールなど

スマートグリッド

 

国のIRENEプロジェクト

 

熱も大事な再生エネ利用

 まだまだ日本では、再生エネの利用=発電と思われています。もちろん、電力は重要ですが、もうひとつ、熱利用を忘れてはいけません。前の表の140か所の太陽熱利用にお気づきでしょうか。また、町ではバイオガスプラントを使い、CHP(コジェネ)による熱で暖房の一定割合を賄っています。

 町の暖房システムは次のようになっています。
 メインはバイオガスを利用したコジェネの熱です。町で熱利用しているバイオガスプラントは2つで、このガスによる熱製造能力が250kWあります。まず町の郊外にあるこれらのプラントから、出来上がったガスがパイプラインで町の中心のコジェネシステム(発電機など)まで運ばれます。その総延長は4.2kmです。造られた熱は、今度は熱供給のパイプラインで町の施設や民間の住宅に送られていきます。この熱ラインは合わせて3km弱です。

 熱の利用先は、今のところ公共施設が中心です。市民ホールや学校、教会などなど、ほとんどの施設が恩恵を受けています。民間でも、2つの企業、24世帯が入るコンドミニアム、25か所の民家などへ熱供給が行われています。

 ドイツの冬は寒くて厳しいため、特に冬になるとこれらの供給先で熱が不足します。その対策として、ペレットボイラー(400kW)が設置されています。ペレットは近隣の町から購入しており、資源の地域利用です。これで、3~4か月間の熱不足の穴を埋めています。さらに、厳寒の時のためにオイルボイラー(385kW)も用意されていますが、これは本当の緊急用です。これらの熱利用システムのお蔭で、年間の重油使用量が24万リットル、二酸化炭素が651トン削減できた(2011年データ)と町では自慢しています。


(集合住宅の屋根に太陽熱)

エネルギー効率を上げながら、民間企業を育てる仕組み

 もう一つエネルギーに関して重要な取り組みがあります。私も最近の講演で必ず取り上げる内容です。それは、「エネルギー効率を上げること」です。

 繰り返しになりますが、エネルギー問題の解決には、エネルギーを創り出す努力や工夫と同時に、消費するエネルギーを減らす努力が必要になります。これは、日本で必ず使われる「省エネ」だけではありません。私はこの省エネという単語は誤解されやすいと感じています。どうも、この言葉は、寒くても暑くても我慢をすることが基本のように見えてなりません。

 重要なのは、少ないエネルギーでもこれまでと同様な効果を生むようなシステムを作ることで、それが「エネルギー効率を上げること」です。ドイツでも、最近は省エネという言葉が影をひそめ、エネルギー効率が前面に並んでいます。この実現のためには、技術革新を含めた工夫が必要です。これが実はビジネスにつながり、成長産業を生むのです。ここが、我慢の省エネとの決定的な違いです。

 少し、脇道にそれました。この町での取り組みです。象徴的なのが、建物のエネルギー効率化です。民家を含めた住宅の断熱性、換気性などの性能を上げるためにある工夫をしています。まず、サーモグラフィで外から住宅を調べます。この調査は町の民間企業が携わり、それには町の補助が出ます。そして、住宅から熱がどんどん漏れているようであれば、住宅の改良工事を積極的に薦めます。断熱材を厚くしたり、換気のシステムを入れ替えたりです。

 特に、換気システムでは、新しいポンプへの取り換えを推奨しています。古いポンプの10分の1以下の電力で新しいポンプは動きます。入れ替えた家庭では、換気用の電気代が削減され、さらに熱が逃げなくなって暖房費も減ります。もちろん、二酸化炭素の削減にもつながります。町では2009年から、「1000のポンプ入れ替え」キャンペーンを行いました。

 ここでは、ポンプの仕入れに仕掛けがあります。大量のポンプを買い付けるのに、町が働きかけて共同購入を行い、安価に手に入れたのです。すでにお気づきだと思いますが、この調査や入れ替えの施工は、すべて町の民間会社が行います。町が計画性を持って進めるので安心してプランを立てながら施工などのビジネスができます。もちろん、共同購入で原価も下げられます。町主導の工夫によって、環境保全、町民の家計へのメリット、そして、民間企業の育成にもつながっています。前回書いた、太陽光パネルの導入プランで共同購入や施工会社の育成を行ったシステムと同じです。



(木造の保育園、屋根には太陽光パネル)

子供たちに未来を託す

 少し、町を歩いてみましょう。市役所や教会が面する町の広場を出て、すぐ裏手に太陽光を屋根に載せたきれいな木造平屋があります。

 なんだろうと覗き込むと、優しい表情のおじさんが挨拶をしてきました。「ここは何ですか。」「保育園ですよ。」との答え。1歳から3歳まで、確か20人ほどが預けられています。玄関を正面に見て、左奥が幼稚園で数十人規模、右手奥の3階建ての建物は小学校です。100人を超える生徒がいます。建物の見た目の美しさも感激ですが、学ぶ子供の多さも驚きのようです。細かい数字が把握できていませんが、わずか2500人の町にしては、考えられない数の子供たちがいると、視察に同行したある方がびっくりしていました。

 ドイツも日本と同様に少子高齢化が進んでいます。人口の年齢別構成比が日本とうり二つなのです。そんなドイツで、ここは子供が集中的に集まる町のようです。再生エネで稼ぐ町は、お子さんを持つ家庭にとっても魅力的なようです。最近は、海外からわざわざこの町に住みたいと言って移住してくる人もいると町長は話していました。

 学校では、熱心にエネルギーの教育も行っています。カリキュラムに組み込まれているのは、再生エネルギー利用の重要性などを知ることなどで、実際の町の取り組みを見ながら子供たちに伝えています。

 学校の裏には、自然をそのまま残した小さな池が設置されて、自然の大切さを肌で学べるようになっています。また、「再生エネ免許書」という制度も作りました。小学校の1年生から4年生までのすべてのクラスが再生エネを学習して、その卒業証書にあたるこの免許書をもらうのです。


(「再生エネ免許書」を掲げる子供たち)

スマートグリッドなどなど

 この町をさらに有名にしたのが、IRENEというスマートグリッドの国家プロジェクトです。再生エネとモビリティ(移動手段)の統合というテーマで、ドイツ国内数か所で行われているうちのひとつがこの小さな町にやってきました。シーメンスが設置した400kWリチウム電池と30台におよぶEVがその象徴です。EVのほとんどはすでに引き上げていますが、町の文化施設で環境保護の研修施設、さらには宿泊施設でもある建物Kultiviertのパーキングには、EVの充電設備があります。


(シーメンス社による400kWのリチウムイオン電池)

 この他、すべてのビルにスマートメーターをつけてエネルギーマネジメントを行っていたり、街灯のLEDが進めていたり、取り上げるときりがないと言った具合です。

 最後に書いておきたいと思ったのは、エネルギーアドバイザーのシステムです。町で建物を所有するすべての人たちは、エネルギーアドバイザーのアドバイスを無料で受けることができます。費用は町負担です。実際に地元企業の「eza!」という名前のエネルギー、環境会社が担当しています。

 また、風力発電では、風力なら何でも分かるという専門家が育っています。他の自治体も含めて、アドバイスを行っています。他にも太陽光などそれぞれの専門家が町にはいるのですが、それは町が長年の取り組みで民間企業を育ててきた結果なのです。太陽光設置業、再生エネのエンジニアリング会社、庭などの造成会社など、うたい文句は「付加価値を地域に」です。


最後に

 いかがでしたか。再生エネで稼ぐというのは、決して売電で稼ぐと言うだけではないことを理解していいただけたと思います。町に仕事が生まれ、会社が育って、さらに町民への様々なメリットを生むこと。そして、それは町による長期的な計画とそれを共同で実行する町民たちの協力で成り立っているのです。

 これは、ドイツでしかできないお伽噺では決してありません。
 次は、私たちの番です。

以上

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