2013. 6. 9 アメリカ取材報告
アメリカ発、バイナリー発電の可能性
○はじめに 現地と日本の温泉発電の状況
5月の初旬にアメリカに行ってきました。私が以前ドイツに少し住んでいたことなどから、どうしてもヨーロッパに目が向きがちでしたが、もちろん、再生可能エネルギーはアメリカでも着々とその勢力を広げつつあります。
今回、アメリカでのターゲットは、バイナリー発電です。日本でも、急激に注目を集めている高い温度の源泉を利用したいわゆる温泉発電と言った方がわかりやすいかもしれません。
日本ではFITの買取り価格がとても良いこと(税込42円、15年間)から、ポテンシャルのある温泉地などには、事業をやりた企業や機材メーカーなどが殺到して、ミニバブルの様相も見せ始めました、そこでの最大の課題は、まだこれはという信頼できる温泉発電の機材が無いことです。もともと大型の発電装置の導入は難しく、せいぜい50~100kWというミニサイズが求められています。この規模で一番名が売れているのは神戸製鋼のものですが、まだ実証として九州で使われている段階です。
そこで、実際に欧米などで商用として設置されているアメリカ製の機材があると聞いて、調査にやってきたという訳です。
視察したのは、発電能力50kW程度の機材です。ちょうど日本の温泉で求められる規模と言っていいでしょう。ネバダ州の砂漠の実施サイトとそのバイナリー発電技術を保有するメーカーを訪ねました。。
○金鉱山とバイナリー発電
向かったのはアメリカ西海岸のネバダ州、リノというカジノの街の近郊です。街から車で山の方向に入って単調な半砂漠を1時間半、露天掘りの金鉱山にそのバイナリー発電がありました。面白いことにこの金鉱山は日本の会社が開発したものです。ここから少し説明がややこしくなります。
もちろん、こんな場所に温泉があるわけではありません。詳しい説明は省きますが、金を掘るためには大量の水が必要なのだそうです。砂漠の中で水を持ってくるのは大変なことで、ここでは井戸を掘って水を賄っています。ところが、このあたりは必ずと言って温泉が湧き出す場所で、この場所でも100℃を越える熱水が出てきます。ただ、そんな高い温度では金を取るのには使えず、いったん冷ましてから利用をしていました。
ちょうど、高すぎる源泉を冷やして利用する日本での温泉発電と同様の状況があったということになります。そこで、バイナリー発電の機材が導入されました。
○砂漠の中の温泉発電
現場はかなりの高地、さらにほぼ砂漠です。植物は背の低いものがちらほらという程度です。朝晩は冷えるようですが、当日5月13日昼過ぎの外気温はおよそ35℃でした。日差しも強く、顔も焼けました。
(左:空冷装置 右:コンテナに収納されたバイナリー発電装置)
金を取った後の小高い丘を背にして、20フィートのコンテナがぽつんとあります。これがバイナリーの発電の本体です。コンテナの手前から奥にかけて熱水を運ぶ管が3本走り、向かって左側に空冷による冷却装置が置かれています。砂漠の中で防音装置もなく、エアコンプレッサーと発電機の音がかなり大きく響いています。
コンテナの中には、熱交換器、バイナリー発電の本体、発電機などが収まっています。発電規模が小さいということもありますが、たいへんシンプルでコンパクトです。
(コンテナの内部)
コンテナの横につけられた小さなコントロールパネルで操作し、またデータはWi-Fiを通じて現地の事務所やメーカーまでリアルタイムで送られています。
ここでの発電の状況を簡単に説明して置きましょう。
熱水は、現場に掘った3本ほどの井戸から送られてきます。金鉱山で使用するすべての熱水が発電に利用されているわけではなく、その一部です。
簡単な発電データは次の通りです。
機材に入ってくる熱水の温度:およそ105℃
機材から出ていく熱水の温度:およそ90℃
熱水の量:1分間に500リットル強
発電能力:40kW強
温泉発電としては、条件がまずまずと言えます。バイナリー機材は、このメーカー(会社名などは後ほど)が最初に製作したもので、他のサイトでの実績も含めて、すでに3000時間を超えて運転しているということです。ただ、この場所では、まだ250時間です。安定的な稼働が続いていて、特に問題なく発電を行っているようです。
また、気になるスケール対策は、熱水の配管そのものを交換することや熱交換機の分解清掃、交換などで対応しています。
さて、機材を作っているのは、2005年に創立されたアメリカの企業、エレクトラサーム社(Electra Therm)です。現在、社員が40名、昨年の売り上げは5億円程度のベンチャー企業です。
(同社を訪れたオバマ大統領)
お話ししたカジノの街、ネバダ州リノ市に本社と隣接した機材のアセンブル工場を持っています。
本社および工場を訪れ、CEOなどの幹部ともお話をさせてもらいました。また、工場では機材の組み立てだけでなく、テストも行われています。ちょうど、国防省向けの機械が工場の外に置かれていました。40フィートのコンテナに1台のマシンと空冷システムを入れ込んで輸送するそうです。
(アセンブル工場内のテストスペース)
メインの機材ラインは、シリーズ4000グリーンマシンです。
名称:Series 4000 Green Machine
システム:ORC(Organic Rankine Cycle)
発電能力:65kWまで
利用可能排熱温度:77~116℃
主な適用先:バイオガスなどの発電機、低温の地熱発電、太陽熱など
今後、ほぼ倍の発電能力を持つ新しいシリーズをリリースする予定です。
(ちなみに、同社の機材は日本での総代理店、ホットアース社が独占的に取り扱っています。
http://www.hotearth.com/ )
○ヨーロッパが中心の設置実績
すでに、世界中で21基の設置実績があり、さらに17基のプロジェクトが進行中です。
設置先は実際には、ヨーロッパが多く、FITなどの買取り価格安いアメリカでは実証用がほとんどだそうです。
実際には、バイオガス発電(発酵)の発電機の排熱利用がメインでドイツやオーストリア、チェコに最も多く送られています。
もちろん、日本の温泉発電などのマーケットにも注目をしているのは間違いありませんし、十分可能性があると思われます。
ちょうど、私が日本に戻った翌日5月16日に次のようなプレスリリースが出されました。「マシンの稼働時間の総計が10年間に」というものです。
設置した21基のマシンの総稼働時間が8万7,600時間を越えたということです。
http://electratherm.com/docs/87600_Fleet_Hours_ElectraTherm_20130516.pdf
○アメリカ国内でのポテンシャル
今はほぼ実証しかないアメリカでも、大きなポテンシャルがあると幹部は語ります。
革命とまで言われるシェールガス関連です。国産の天然ガスが大量に生産されるようになると、その天然ガスを運ぶためにガスの圧縮が必要です。この際に発生する大量の熱がバイナリー発電にぴったりということのようです。ラインとしては、現在の4000ではなく、一つ上のシリーズ5000で、5年以内に大きなビジネスにしたいと熱く話してくれました。
○日本での可能性
エレクトラサーム社の強みは、まずこの50kWクラスでの商用実績を持っているメーカーが、日本の市場では見当たらないことでしょう。総代理店の話を聞いても、すでに多くの引き合いが来ているようです。また、大きなポイントでもある価格も、円安にもかかわらず、十分競争力を持っていると話します。
適応先は、なんといっても日本の有利なFITの買取り価格が適用される分野が対象です。第一は温泉発電、そして、うまく進めばバイオマス(木質バイオマス発電、バイオガス発電)というところです。また、太陽熱の利用という変化球も案外面白そうです。
また、経産省が助成金を出し始めた一般(ごみ焼却など)の発電機からの排熱発電でも力が発揮できるかもしれません。
○最後に
いずれにせよ、日本の将来のエネルギーを考える時、いわゆる再生エネによる「創エネ」だけではなく、エネルギーを有効に使う「エネルギーの効率化」を進めなければならないことは自明の理です。
せっかく存在しているのに、今は捨てているエネルギーを拾って使えるバイナリー発電は、まさにそのために必要な技術です。エレクトラサーム社に限らず、内外のメーカーが切磋琢磨して、安定した技術にまで高めてもらいたいというのが私の心からの希望です。温泉に限らず様々な場面での利用、適応が待たれているのです。
JAPAN RENEWABLE-ENERGY
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