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日本再生可能エネルギー総合研究所は、再生可能エネルギー普及のための情報収集と発信を行っています。

リポートReport

 2013. 3.17 ドイツ取材報告7
          ドイツ・バイエルン州、再生エネで550%発電する町(下)

                                    

再生エネで自立する町ヴィルトポルズリート(Wildpoldsried) 

 再生エネによる電力で消費電力の5.5倍を創り出す町の後半です。 

 ドイツの南のバイエルン州の最南西部にある、人口は2500人の本当に小さな静かな、良い意味での田舎町です。農業や木製品の工場があり、また太陽光や電気機器も造るなど「小さいが自立した町」という自称がぴったりです。

 (上)では、まさにこの町を再生エネのデパートと言い切って、太陽光、風力、バイオマス、小水力など町の持つ再生エネ電力施設を紹介しました。
 また、背景にある町の保守的な土地柄と20年前から始まった再生エネの取り組みとの落差にも少しふれました。

 (下)では、再生エネの熱利用を取り上げます。また、スマートグリッドの国家プロジェクト参加や水素社会への挑戦など進化を続ける町の今をお届けします。

再生エネの重要な役割 ~熱利用

 ご存知の通り、再生エネの役割は電力を生み出すことだけではありません。実は、まず熱利用が先にあり、また大きな可能性があるのです。過去の歴史を見ても、人間は熱を再生エネに頼ってきました。

 現在の先進国のエネルギーを見たとき、全体の最終的な消費エネルギーのうち、およそ20~25%が電力、およそ40%が熱利用、残りがガソリンなどによる交通手段です。エネルギー問題を考えるとき、熱を抜きにして考えることは意味がありません。

 そのため、ドイツでは熱をこれまでの化石燃料ではなく、再生エネで作り出すという取り組みに大きな力を注いでいます。また、付け加えておきますが、熱をいかに逃がさないか、無駄にしないかということも同様に大変重要で、特に家やビルの断熱や効率的な換気はエネルギーの消費に驚くほどの差をつけます。

 日本はこの点において、悲しいほど遅れています。日本のエネルギーの将来を考えるとき、これは大事なポイントになります。

町の暖房システム

 基本的に使用する熱は、(上)に載せたバイオガス施設のコジェネによって作り出されます。
 コジェネシステムは2基あり、ひとつの能力が250kWで合計500kwとなります。

 もうひとつが木質ペレットボイラーによるものです。この町には近隣の森林を利用して木材の加工工場がたくさんあります。そこから出たおが粉や切りくずなどを利用して木質ペレットを作っているのです。2005年に町のペレット工場が出来上がり、町の暖房システムが動き始めました。

 まず、インフラとして町の中を広く走る熱供給のパイプラインがあります。トータルの長さは、現在2885kmにもなります。これは2007、2009年、2010年と延長が続いています。そこを、まずバイオガス施設(町の中心から4km)のコジェネで造られた熱が通り、公共施設などへ届けられます。現在、市役所、教会、消防署、学校、老人ホーム、ほとんどの公共の建物や一部の民間住宅に熱が供給されています。

(写真:使用されている熱の導管)

 熱供給のコントロールルームは、町の中心にある公共施設(エコツアーの宿泊施設や環境教育センター、ホールがあります。)の地下にあります。

 また、木質ペレットを使ったボイラーも同様にこの地下に設置されています。ドイツの冬の寒さは厳しく、冬の中心の4か月間はバイオガスのコジェネの熱だけでは足りません。この不足分をペレットボイラー(能力400kW)でカバーしています。

  (写真:ペレットボイラー)

 2011年の例では、ペレットボイラーによる年間の熱供給の実績は、66万5,640kWh、バイオガスのコジェネ分は、177万5,680kWhでした。これによって、暖房用のオイルを24万1,320リットル節約し、CO2を65万1,564kg削減できたそうです。

 さらに、ヒートポンプにも力を入れ始めました。
 現在、5つの場所で利用されており、町でも設置を薦めています。

スマートグリッドプロジェクト「IRENE

 この町は、再生エネでエネルギーを創り出すだけでなく、スマートグリッドのプロジェクトのモデル地区にもなっています。

 ドイツの連邦経済省が進めるIRENEというプロジェクトです。IRENEとは、Integration regenerativer Energien und Elektromobilität(再生エネと電気交通手段のインテグレーション)の頭文字を取った国家プロジェクトです。もう少しわかりやすく言うと、「再生エネ電力をEVなどの未来交通手段に供給するシステムを作り上げるため、技術的、経済的な解決方法を実証するプロジェクト」ということになります。

 この小さな町が国家的プロジェクトの実証地域に選ばれるということ自体が驚きですが、これまでの長年の実績を考えれば当たり前かもしれません。

 プロジェクトには、90年以上にわたって地域での電力供給を担ってきたAUEW(アルゴイ地域電力)がフィールドパートナー、世界的なエンジニアリング会社シーメンスが技術パートナーとして参加し、さらに、地元のケンプトン大学、RWTHアーヘン大学が学術的な調査パートナーとして入る布陣です。

 細かいプロジェクトの内容は省きますが、このプロジェクトでは、風力や太陽光発電による電力、EV、蓄電池が使われ、その技術的な統合について2年にわたる実証が行われます。

 私が訪問した時には、すでにシーメンスによって400kWのリチウム電池が導入されていました。価格は50万ユーロということです。

(写真:リチウム電池 400kW)

 さらに、30台のEVが現地で走っており、いくつかのドイツ国内のニュースでも取り上げられていました。EVは、世界中のいろいろなメーカーが揃えられていましたが、町長はそっと「三菱のものが一番性能が良い」と私に囁きました。


(写真:町のWEBサイトより)

水素社会への挑戦「Power to Gas

 よくもここまでと思います。町長は、次の計画を考えています。

 それは、再生エネ利用による水素の製造です。再生エネ電力の欠点と言われる発電の不安定性を解消するためには、早い時期に余剰電力を何らかの形で貯蔵する技術開発が必要になります。現在、ほとんどのケースで揚水発電が利用されていますが、再生エネの普及拡大により、とてもそれだけでは賄えなくなります。

 そこで、いくつかの技術開発が急ピッチで進められている中、再生エネ電力を使い、水を電気分解して水素を作るというやり方がひとつの有力な方法として考えられています。国や州、民間でいくつものプロジェクトが進んでいます。

 いわゆる「Power to Gas」というプロジェクトです。

 町では、この「Power to Gas」のフィージビリティスタディ(実現可能性調査)をスタートさせました。
 再生エネ電力で水素を作る目的として、町では2つのことを挙げています。
 ひとつは、水素による電力の貯蔵です。そして、もうひとつが、その水素を燃料電池自動車の燃料とすることです。

 実はドイツ各地で行われている「Power to Gas」プロジェクトには大きく分けて2つの潮流があり、ある意味対立もしています。

 ひとつは、出来あがったガス(水素だけでなく、メタンにすることもある)を直接ガスラインに入れて使用するというものです。ガスラインには現在10%までの混入が認められており、新たなインフラの投資をしなくても一種の「貯蔵」が低コストで実現するというメリットがあります。当然ですが、後押しをするのはガス供給会社が中心です。

 一方、せっかくできた純粋な水素は大事に使いたいというのが、別のグループです。水素の形で貯蔵されたエネルギー(元は風力などの再生エネ電力)を、燃料電池や燃料電池自動車で使うのが最も効率が良く、美しいという訳です。余計なことですが、この「美しい」という感覚は、技術者にとってある種心に響くのではないかと密かに私は考えています。

 町の可能性調査の目的は国レベルの動きを的確にとらえたもので、私の「こんな小さな町が」という言い方が、いかに失礼なものであるかを示しています。

 町長によれば、実際のプロジェクトに進みたいということで、その時には水の電気分解機を導入するなど本格的なプロジェクトにしたいようです。まだ、どこと組むかは決めていないと話していました。

 どこか、日本の企業が手を挙げてみてはどうかと、私は本気で思っています。どうぞ、声をおかけください。アレンジをします。

環境教育、再生エネ視察ビジネス

 もうひとつ。こちらはサイドビジネスです。

 私がこの町に注目したように、ドイツのマスコミもこの町の再生エネへの取り組みに長年注目を続けています。
 これは、再生エネが抜群の町のPRになるということです。それも、自分たちがわざわざアピールしなくても向こうからやってくるのです。日本でもバイオマスで有名な岡山県の真庭市には年間1万人を超える視察者が来るそうです。

 この町にも世界中から視察が訪れます。

 私が滞在した時にも、スイスのある町から消防団(なぜ???)のグループが視察に来ていました。過去には、福島からの視察や、日本の大企業グループからの視察もあったそうです。

(写真:スイスからの視察グループ)

 ヴィルトポルズリートの町は、それらの人たちをターゲットに宿泊施設まで作ってしまいました。また、その宿泊施設は、研修施設としても利用できるようになっており、そこでは環境教育のセミナーが開かれています。

(写真:環境研修センター)


最後に ~利益を生む再生エネ

 ひとつ大事なことを言い忘れました。
 
 後半のスマートグリッドプロジェクトなどは、国や大企業のお金が投入されている実証で、確かにビジネスとは別物です。
 しかし、この町の数ある再生エネ電力や再生エネ熱は違います。

 日本の自治体が行う先進的な取り組みは、どちらかというと税金を使ったショーウインドウ的なもので、利益は出ないのが当たり前のものが多いと思います。ここでは、違います。ほとんどすべてがビジネスとなり、町に利益をもたらしています。

 町で使用する5.5倍もの電力を創り出すのですから、残りはFITなどを通じて買い取ってもらいます。風力は市民風車です。利益は町民のもとに戻ってきます。町の住宅の4つに1つが持つ、屋根置き太陽光も同じです。バイオガスプラント、小水力は個人の農家の持ち物です。

 また、太陽光パネルの設置や各種の施設のエンジニアリングやメンテナンスの多くは町にある企業が取り扱っています。前述した観光産業もあります。

   町も町の人たちもしっかりと再生エネで潤っているのです。

 町を紹介するニュースのコメントでこんなものがありました。
 「この町では、エネルギーとエコノミーが手を組む」。

 町の人々は、もちろん、化石燃料や原発に頼らない再生可能エネルギーの利点を強調します。しかし、それだけではありません。経済的利益も必ず付け加えます。それが、この町の再生エネへの取り組みの本質です。

以上

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