2013. 3.17 ドイツ取材報告6
ドイツ・バイエルン州、再生エネで550%発電する町(上)
○はじめに 〜再生エネで自立する自治体
ドイツには、再生可能エネルギーを使ってエネルギーの自立を進めている自治体がたくさんあります。
例えば、古くはドイツ中部のユンデ村から始まる、国が認めたバイオエネルギー村(Bioenergiedorf)は、全体で133を数えます。ちなみにバイオエネルギー村とは、地域の電気と熱の50%以上を地元で造ったバイオエネルギーで賄っている村のことです。
大きな都市では消費するエネルギーが多量になるために実現は難しく、133の自治体はいずれも小規模です。また、名前の通り、当初は畜産系の廃棄物を使ったバイオガスが主流でしたが、最近では太陽光や風力発電を併設するケースが増えて、実際に消費する電力を大きく超える発電を行っているところも少なくありません。
そこで、今回はそのバイオエネルギー村の一つであり、様々な発電や熱供給だけでなく、蓄電池やEV、水素などまさにドイツの最先端の取り組みをしている町をご紹介します。
私が昨年の秋に訪れたときのまとめです。
○Wildpoldsriedとは
ドイツの自治体を称するときにいつも悩むのは、名前に加えてなんと呼べばいいのかということです。いわゆる村、町、市という呼称です。ここでは説明しませんが、自治体の制度が日本と違っているため、簡単ではありません。また、例えば、それに基づく選挙制度もかなり面倒くさいものです。
いつも勝手に、人口が数万以上にもなる大きなものは「市」、それよりぐっと小さいと「町」、そのうち農業が盛んなところを「村」などとしています。
さて、Wildpoldsriedです。発音は、「ヴィルトポルズリート」が近いと思います。ドイツの南のバイエルン州の最南西部にあります。ドイツ全体でみると一番南に位置し、東西でいえばちょうど真ん中になります。
人口は2500人です。標高700mを越えるやや高い場所にあります。産業は、農業もありますが、木工などの工場や、太陽光、電気機器その他の会社も多く存在しています。彼らが自分たちで宣言している「小さいが自立した町」がぴったりかもしれません。
ということで、Wildpoldsriedのことを町と呼び、後述するこの自治体の長を町長と呼びます。(写真:ヴィルトポルズリートの町)
○再生エネのデパート
陳腐な表現ですが、この町はまさに再生エネのデパートと言っていいいでしょう。
太陽光、風力、バイオマス、小水力とドイツにある再生エネ源をずらりと持ちます。さらに、ペレットも生産し、熱利用に使っています。
驚くのは、昨日おとといからの取り組みではないということです。すでに20年を超える経験を持っています。
また、それが進化を続けています。
私が訪れたその日に新たに市民風車が1基動き、その後1基も稼働を始めました。(写真:ヴィルトポルズリートの町)
また、国のスマートグリッドプロジェクト「IRENE」の正式な実施場所に指定されています。その上、再生エネ電力からの水素製造も考えています。水素社会への探求も日程に上っているのです。
ドイツの田舎町(正直言って他の言葉が思いつきません。)、わずか2500人程度の小さな町がなぜこんなに熱心に再生エネに取り組んでいるのでしょうか。町長へのインタビューも含めてまとめてみました。
余計なことです。この町も自らのWEBを持って、いろいろPRをしていますが、データの更新がのんびりしていて、私の報告の方が最新情報になっています。
風況が6.6m/秒と恵まれています。
現在、町を囲む森の中に合わせて11基の風車があります。そのうち7つがこの町の住民が所有する、いわゆる「市民風車」です。一番古いものが12年前のもので5年前にその数が増えました。
そして、私が訪れた昨年の10月に新たに2つの風車がちょうど動き始めました。(写真:市民風車)
新しいものは、2.3MWの発電能力、高さ135m、これまでの5基は1〜1.5MW程度とやや小規模です。これによって合計の発電力は10MWを越えることになりました。年間の発電量は、2万4千MWh程度にまでなると想定されています。
(写真:最新の市民風車)
町の年間消費量が、6千400MWhですから、風力発電だけで消費量の3倍半以上を稼ぎ出すことになります。
○
合計4MW以上の発電能力を持ち、風力に次ぐ再生エネ電力の稼ぎ手です。
(写真:消防署の太陽光)
2002年から屋根に太陽光パネルを載せ始め、民間の住宅の屋根を皮切りに、スーパーや各種公共の建物、例えば消防署の屋根もパネルで覆われています。
面白いのは、その普及の進め方です。もちろんFIT制度も大きな後押しとなっていますが、地元の企業を巻き込んだ4回のプログラム(ヴィルトポルズリートのソーラーアクション)で一気に広がりました。
地元のエンジニア会社や太陽光設置業者がコーディネート役を担い、普及に大きな役割を果たしています。ちなみに、2003年のプログラムでは、シャープのパネルが大量に導入されました。
ドイツではどこでも見られる家畜系廃棄物などの発酵を利用したバイオガスのプラントがここには5つあります。
そのうちの3つが農家の所有するものです。基本的には、発酵から生まれたガスを使ってコジェネを行い、電気だけでなく熱も生み出しています。
実は、この熱がこの町では大変重要な役割を果たしています。日本の将来のエネルギーを考えるときにも、この熱利用を抜きには語れません。
(写真:町最大のバイオガスプラントとサイレージ)
私は、このうち最大、1.1MWの発電と1.3MWの熱供給能力を持つ施設を訪れました。
まず、家畜系の原料は近隣の農家から運び込まれてきます。廃棄物を運んできた農家は、その代わりにプラントで出来た消化液(液肥)を持って帰ります。それを自分の農地に撒いて肥料にしています。
ここにお金のやり取りは発生しません。いわば物々交換です。他のドイツの施設でも、基本的にこのやり方が行われています。これが、全体のコストを抑える役割をはたして、施設を所有する事業主に大きな利益をもたらす源泉の一つになっています。具体的に言えば、廃棄物(プラントの原料)そのものの代金だけでなく、輸送費や消化液の処分費などすべてカットできるという訳です。もちろん、廃棄物を持ち込む側も、廃棄物の処分費や肥料代が大幅に削減となり、大きなメリットがあります。WINWINの関係です。
この仕組みがなかなか日本では実行できないため、バイオガスプラントが普及していないという原因にもなっています。
ここで家畜系廃棄物以外に原料としてプラントに投入しているのは、自分たちの作物のうち売れ残った野菜です。ジャガイモや玉ねぎなどが実際に使われています。また、エネルギー作物としてトウモロコシの実だけを買って使用しています(ドイツの他の場所では、茎などすべて使っていましたが)。ここは標高が高く、トウモロコシができないため、60km離れたところから買っているということでした。
○小水力発電もあります
小水力発電の水車は3基あります。
大きさは、8kW1基と25kW2基で、合計3基です。
25kWの片方は、1966年と50年近く前から動いています。この水車の所有者は、町長のアルノさんです。また、他の2基は1992年から稼働しています。
○それに対して、再生エネを進める勢力も反論を開始しています。電力料金の高騰は再生エネが原因ではないとの論拠を挙げたり、その他いくつもの観点からの議論が俎上にのったりしています。
面白いのは、この投資雑誌もそうですが、経済、特に投資関係の雑誌が再生エネに好意的な記事を特集していることです。「ECOreporter」という、やはり
○政治と再生エネ
ここで、ちょっと別の観点からこの町を見てみましょう。
この町があるドイツのバイエルン州は、風光明媚かつ産業も盛んな自主独立の誇り高き州で、基本的にたいへん保守的と言われています。
政治的には、CSU(キリスト教社会同盟)というドイツで一番保守的な政党が一貫して統治を続けています。CSUはまさしく地域政党で、バイエルン州にしか存在せず、国政レベルではアンゲラ・メルケル首相率いるCDU(キリスト今日民主同盟)と姉妹政党で、与党を構成しています。
この町もご多分に漏れずCSUが一貫して町政を握っています。町長のアルノさんは17年前から長く町長の職にあります。もちろん、がちがちのCUS党員です。再生エネへの取り組みはその前の町長の町政時(およそ20年前)からのものです。
何が言いたいかというと、、、その保守的な人たちでさえ、そんなに前から再生エネの取り組みをおこなっているというのが、ドイツの現状です。
実際に町長にそのことを質問すると、「自然に優しいエネルギーを使うことは間違いなく良いことで、日本はいつまで原発に頼るのだ。」と、何をそんなことを質問するのかと、逆に不思議がられました。
次回(下)で少し書きますが、この町は再生エネを観光にも利用しています。日本からもこれまでいくつかのグループが訪れています。町長によれば、数年前は福島からもお客さんがあったし、日本の大きな企業(具体名がありますが、ここでは控えます。)も大挙して訪れたそうです。
ただ、いつも視察に来て、たくさん質問して、感心して、帰るだけで、その後、日本でこの経験を取り入れて何かを実行したという話をトンと聞かない。とちょっと皮肉っぽく、そして残念そうに話していたのが印象的でした。
○最後に
後半へと続きます。
(下)では、重要な要素である熱利用と、EVや蓄電池を含むスマートグリッド、さらには、再生エネ電力を利用した水素製造への取り組みもご紹介します。
以上
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