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日本再生可能エネルギー総合研究所は、再生可能エネルギー普及のための情報収集と発信を行っています。

リポートReport

 2012.10.17 ドイツ取材報告2 原発なしで電力は大丈夫なのか?
          〜投資から見た再生エネの将来(下)

                                    

はじめに

 再生エネの投資から見た将来(下)です。

 ドイツの株式を含む投資家向けの雑誌『GoingPublic Magazin』の特集記事を引用しながら、今回取材した内容を交え、再生エネの現状と将来を見ていきたいと思います。
 前半(上)では、再生エネに関する多くのドイツ政府の施策が足踏みしていること、具体的には再生エネ賦課金の上昇や送電線整備の遅れ、太陽光バブルの崩壊など負の側面を特に取り上げました。『GoingPublic Magazin』では、それにもかかわらず、『発電・電力供給とその安定性を保つことは、経済的に膨大なビジネス需要を生み出す。』との著名コンサルタントの言葉を掲げ、前向きな面も強調していました。では、後半の始まりです。

地下からのエネルギー 〜地熱発電の魅力

 (以下、基本的に『』内が雑誌からの引用です。)

 『太陽光部門のネガティブな状況にもかかわらず、ドイツの再生エネ産業は勇気を失う必要はない。ドイツのエネルギーシフトでは様々なグリーンテクノロジーがある。水力やバイオガス以外にも、地熱が将来重要な役割を果たすと考えられる。現状として地熱はほとんど熱として利用され、発電に使われているのはまだ一部でしかない。合計7.3MWの発電だ。しかし、徐々に大きなプロジェクトが見られる。

 地熱は他の再生エネとの比較でいくつもの長所がある。株式評論のDaldrup&SoehneJosef Daldrup社長によると、「地熱はベース電源となり得ることが最大の利点で、これは天候にも時間、場所によっても影響を受けない。熱や電力が一定に供給され、年間8000時間以上の発電を期待できる。」地熱発電は、マルチタレントだという。「地熱はエネルギー的に言って、熱、冷熱、電力、などいくつもの使い道が可能である。また、一時的なエネルギー貯蔵として地熱源を使うこともできる。」と語る。中期から長期の良い投資対象として考えられる。成長見通しは良好である。』

 ドイツで地熱?と、首をかしげる人も多いかもしれません。確かに地震がほとんどなく、火山国でもないドイツでそんなものが成り立つのかと思うドイツ人も実際にいます。しかし、今回のドイツ取材でも具体的なプロジェクトの話を聞きました。たとえば、南部のバイエルン地方ではミュンヘンから少し南に下ったところで地熱のプロジェクトが進んでいます。実際に3kmも地下の掘削を行ってパイプを通しているようです。
 今年1月からのEEG(ドイツ版再生エネ法)では、洋上風力と地熱の拡大がうたわれ、そのための優遇措置が図られています。

 地熱の有利性は雑誌の引用の通りで、ベース電源になり、高い効率性と安定性があることがポイントです。しかし、新規に掘削を行う大型の地熱発電はやはり初期投資の費用や建設時間も膨大にかかることになります。一方で、既存の温泉を利用する小型のバイナリー発電であれば、掘削もなしで簡単にプラント(というより、装置)を設置することが可能です。ドイツでは特に南部には温泉もあり、可能性はあるのでしょうが、火山国でそこかしこに温泉が湧く、世界第3位の地熱ポテンシャル国、日本の方がさらに大きな可能性があると言えます。また、今回の日本のFITでは大変高い買取りが設定されていることも、後押しになります。日本でも良い投資対象だと言えそうです。

発電事業者のシフト

 『多くの新しいエネルギー生産技術の成長は、エネルギーを製造する企業の成長とも密接に関連する。「エネルギー製造企業の挑戦は、増える電力需要に対して、できるだけクリーンで環境に優しく、リスクを低減した電力を供給し、政治的な目的に合致したものにするということだ。」こう、Sarasin銀行のDr. Matteus Rawer持続可能性アナリストは語る。「同時に、全体のエネルギーのポートフォリオを新しくし、スマートにする必要がある。」』

 エネルギーを造りだす企業の役割を自然エネルギーシフトさせること、そして、政府のエネルギー政策を実現する方向でチャレンジするべきだと語っています。それが、ひいてはエネルギー製造企業の発展をもたらすという訳です。

 実際に、昨年の福島事故後、ドイツ最大のエンジニアリング会社シーメンス社は、その売上げの20%を占めていた原発関連部門の撤退を決めました。再生エネ部門へのかじ取りをさらに強化しています。倫理的や理念的な必要性とは別に、政府が方針を決めれば私的な企業はそれに従うしかないということであり、裏を返せば、そのシフトがどう早くできるかが、企業が生き残れるかどうかを決めることになります。

 『もちろんエネルギーシフトは、エネルギー事業に新しい領域をもたらしている。「再生可能エネルギーは、今後常に重要な役割を果たしていくことになる。
 前提条件としていわゆるスマートグリッドを必要とする。たとえば送電網によって効率的な電力利用が実現されることになる。」と、Rawerは現状を分析する。さらに、「新しいエネルギー貯蔵方法が必要となる。例えば、増え続ける風力や太陽光による電力を直接ネットに入れることはできず、適切なエネルギー貯蔵技術で需要に合わせて貯蔵をしておくことになる。」』

 エネルギーの再生エネへのシフトは、新しい技術だけでなく、新しい領域をも作り出すとしているのです。具体的には、ここで挙げられているようにスマートグリッドやエネルギー貯蔵という分野です。

 他国に比べてやや遅れていたドイツのスマートグリットへの取り組みですが、ここのところ目覚ましい進み方を見せています。これは、再生エネ電力の急激な増加を前に安定的な電力供給の手段のひとつとしての必要性が取りざたされるようになったからです。また、電力の効率的な利用、また、主たるエネルギー消費先であるモビリティ(ガソリン車からEVFCVへの転換)との組み合わせとしてスマートグリッドが重要性を増していることも理由です。

 エネルギー貯蔵については、次の項で。

余った電力は、どこへ行くのか?

 『この観点から、革新的なエネルギー貯蔵技術を抜きにして再生可能エネルギーの普及は達成できない。この分野では常に進歩があるが、いまだ実際にブレークスルーした技術は存在していないのが現実だ。   Ludwig-Boelkow-Systemtechnikの社長であるUwe Albrechtは「エネルギー貯蔵の利用範囲はたいへん広い。エネルギー貯蔵は、統合された再生エネのシステムに置いて様々な役割を果たすことになる。秒単位の発電能力の揺れの安定化から、何日も何週間もの長期間にわたるエネルギー貯蔵までがカバーすることになる。貯蔵技術はそれぞれの利用領域において、技術だけでなく経済的な長所を持っている。」と話す。
 電力供給の安定化のためにエネルギー貯蔵技術は無くてはならないものになる。エネルギーを再生エネにシフトするためには、まず、短期間のエネルギー貯蔵能力を2025年までに少なくとも倍にしなければならない。これはDB(ドイツ鉄道)の研究によるものだ。そして、2040年以降は、電気を何か月にも渡って貯蔵することが出来なくてはならない。このため、この分野における投資需要は300億ユーロに達する。このような開発は新しい企業に大きな利益をもたらすことになる。』

 取り上げられているドイツ鉄道の研究では、余剰電力の50%を貯蔵するとして、2025年には貯蔵電力量が1.8TWhとなり、それが2040年には20TWhにまで跳ね上がるとしています。2040年以降、何か月も貯める技術が必要となるという根拠です。

 ドイツでは、今年の春以降から国家的事業として、エネルギー貯蔵技術の開発と実証が数十のプロジェクトとして始まっています。ドイツのエネルギー貯蔵の現状は、ほとんどすべてが揚水発電です。いろいろヒアリングをすると、揚水発電のドイツ国内でのポテンシャルはまだありますが、採算性が低いために発電会社が取り組みたがらないということです。また、近隣のオーストリアやスイスの揚水発電を結果として利用しているのですが、再生エネが大幅に増えたときには、とても賄い切れず、よって、新しい貯蔵技術の実現化が待たれることになります。例えば、余剰電力を使い水を電気分解によって水素やメタンの形に変えてガスパイプラインに投入するPower to Gas方式や、水素で貯めておいて燃料電池で電熱利用するなどです。今回、ドイツ取材の柱の一つがエネルギー貯蔵でした。詳しくは、別の機会にまとめます。

 300億ユーロという数字がどのような根拠に基づくのかはわかりませんが、再生エネ電力を作り出すところ以外にも、周辺で発生する新しい分野に大きなビジネスチャンスがあることは当然ですし、忘れてはいけないということです。

M&A市場のブーム

 『再生エネ部門ではさらに多くの挑戦が必要だろう。しかし、世界中で成長の兆候が見られる。実際のM&A事業に携わっている立場から見ると、昨年のM&Aの実績は、前年比135%、250億ユーロに上った。Kanzlei Roedl & Partnerによると。さらに増加傾向にあり、上限はいまだ見えない。現時点は、まさに戦略的買収の良い時期だ。それによって市場での力を強くすることが可能だ。これは西洋の工業国だけに通じることではなく、アジアやラテンアメリカ、アフリカにも適応する。』

 M&Aの観点の投資部門から見ても、再生エネは成長を続けており、その限界はまだ見えてこないとしています。(上)で見たように、課題は多く残っているのも明らかです。しかし、投資サイドの見方からは、まだまだ成長はこれからで十分に投資価値ありというのが、この雑誌メディアの結論です。

終わりに

 ドイツでは、この時期がちょうど来年度の再生エネ電力の賦課金が決まる場面です。どうやら、来年は今年の3.592ユーロセントから、ほぼ5割増の5.4セントに跳ね上がることになりそうです。平均的な家庭で年間50ユーロ、5000円以上の値上げになります。

 電力料金の高騰、送電線問題、太陽光バブルの崩壊など、一見、再生エネに逆風が吹いているかにも見えます。もともと、再生エネ導入にやや否定的だった産業界やエネルギー業界から、嵐のように批判議論が復活し、FDPなど一部与党からは再生エネ法の廃止意見までが表に出てきました。その議論のいくらかはこれから日本にも伝えられてくるでしょう。

 それに対して、再生エネを進める勢力も反論を開始しています。電力料金の高騰は再生エネが原因ではないとの論拠を挙げたり、その他いくつもの観点からの議論が俎上にのったりしています。

 面白いのは、この投資雑誌もそうですが、経済、特に投資関係の雑誌が再生エネに好意的な記事を特集していることです。「ECOreporter」という、やはりファンドなどの含む投資雑誌が、『エネルギーシフト 隠れた事実』という特集で再生エネに対する批判がいかに根拠のないものであるかを細かく証明しています。

 私の見方はこうです。まず、これまで隠れていた数字や論議が表に出てきたこと、それ自体とても良いことに思えます。そして、オールオアナッシングではなく、よりよき方向にその行く筋が修正されるというのが望ましい展開でしょう。ちょうど2日前の10月15日に、東京で開かれたあるシンポジウムに参加しました。そこでお会いしたのはドイツの脱原発政策を決定した時に重要な役割を果たした有名な倫理委員会のメンバーの一人で、彼女はまさに「再生エネの普及策についてミスがあれば正し、より良き修正を行うべき」と語っていました。もちろん再生エネの発展は間違いなく、その目的のためにもということですが。

 このテーマは、『ドイツで今、起きていること』シリーズの最新バージョンとして、まとめる予定です。

以上


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