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日本再生可能エネルギー総合研究所は、再生可能エネルギー普及のための情報収集と発信を行っています。

リポートReport

 2012.10.10 ドイツ取材報告1 原発なしで電力は大丈夫なのか?
          〜投資から見た再生エネの将来(上)

                                    

はじめに

 実は、脱原発をすでに決め、再生エネの拡大で電力をまかなう方針を進めていているドイツでもエネルギーミックスに関して日本と大変似たような議論が続いています。
 ちょうど日本では、原発の割合をどうしようかと政府が国民から意見を求め、『2030年代に原発なし』をいったん掲げた後、経済界の激しい抵抗やアメリカなどの外国からの圧力が話題になっていました。

 ドイツでも、電力料金の上昇や送電網の整備がうまく進んでいないことなどから、再生エネに懐疑的な声もマスコミを通じて大きくなってきました。それに対して、再生エネを推進する側も反撃しています。
 ドイツ人は、たいへん自然が好きで環境への関心も高いので有名です。その点で、反原発の運動や評論、また再生エネへの肩入れもやや感情的な見方になることもあります。

 そこでこのリポートは、ドイツで手に入れた『GoingPublic Magazin』という、株式を含投資家向けの雑誌の特集記事を引用しながら、ドイツの再生エネの現状と将来を見ていきたいと思います。再生エネの現状がコンパクトによくまとまっていること、ビジネスの観点から再生エネを見ていることから、より中立的な見方につながるのではと考えたためです。

GoingPublic Magazinの再生エネ特集の冒頭のコメントから

 (以下、基本的に『』内が雑誌からの引用です。)

『「福島の事故後に、ドイツ政府は2022年の脱原発を決めた。政府のプランがしっかりしていれば、最後の原発がその年の末までに止まることになる。
 しかし、問題はマスタープランがいまだにないことだ。それでは経済立国ドイツにどんなチャンスと挑戦がそこにあるのだろうか?」』

 多くのドイツ人が、昨年メルケル政権の決めた脱原発政策そのものを支持しています。しかし、2022年という目標年と、そこに至るまでのプランについて、あまりに性急ではないかと考えている人も少なくありません。そして、実際に再生エネの拡大の中で、いくつもの問題点が起きていることもまぎれもない事実です。

『本当に2022年までにエネルギーシフトはできるのか、疑問を投げかける声がさらに大きくなってきている。オフショアの洋上風力から、エネルギー貯蔵、電力網の整備とあちらで建設ラッシュが停滞している。
 しかし、経営コンサルタントでエネルギーシフトINDEXを創り出したA.T.Kearneyはこう話している。発電・電力供給とその安定性を保つことは、経済的に膨大なビジネス需要を生み出すと。』

 
様々な計画が必ずしもうまく行っていないこと。
 具体的には、例えば洋上風力から地上への電力接続やさらに南(ドイツは北にしか海がないため)への送電線の設置が政府の計画が定まらないことや地元住民の反対などで進んでいません。また、エネルギー貯蔵の技術がまだ開発途上であることなども含め、エネルギーミックスの急激な変化がもたらしているドイツの状況は、現状において、すべてが必ずしも順調に行っているわけではありません。

 そう言いながら、実は大きなビジネスチャンスがこの先に待っていることを指摘しています。もともと、ドイツでは再生エネへのシフトの大きな目的のひとつに、新しい産業と雇用の創出がありました。日本で行われた脱原発に関する議論の中で、再生エネに慎重な立場を取る理由の一つに莫大な投資を必要とするためというものがありました。たぶん、ドイツではそれが反対理由になることが理解できないでしょう。莫大な投資は、巨大なビジネスチャンスと考えるのが、普通だからです。

高騰する電力料金(雑誌のサブタイトルから、以下同様に)

『再生エネ電力への補助に対する厳しい批判は、まさにエネルギーシフトに対する中心的なものだ。例えば、EU-エネルギー委員会のGuenther Oettingenは、ドイツの電力料金の高騰の犯人は、再生エネ法による助成であるとしている。

 再生エネ法の賦課金は、風力、太陽光、水力、バイオガスの発電施設に利益をもたらしている。2011年だけで、賦課金の合計は164億ユーロに達した。来年2013年の賦課金は、今年の3.5ユーロセントから5ユーロセントの大台に乗ろうとしている。もちろん、再生エネ電力の施設建設の加速が原因だ。電力料金の高騰は、中小企業を直撃している。一方で再生エネ賦課金に関して、電力多消費型の企業が利益を上げているにもかかわらず。』

 なかなか批判的な記述が続きます。賦課金に関する数字は事実ですから、そこは否定しようもありません。ただし、賦課金が40%を越えて上がるからと言って、電力料金が同じ割合だけ上がる訳ではありません。現状で電力料金の中で賦課金が占める割合はおよそ13%程度だからです。また、電力が売り買いされるマーケットに大量の再生エネ電力が入ってきたおかげで、市場での電力価格は下がり続けています。ですから、電力供給会社が仕入れてくる電力の原価を押し下げる役割も再生エネ電力は果たしているのです。

 また、少し説明が必要なのは、電力を大量に消費する企業の話です。これらの企業に対しては、電力料金の賦課金分についての減免措置があります。日本の固定価格買い取り制度にも同様に申請による減免制度があります。ただし、ドイツの場合は大量に使うほど減免の割合が上がるため、節約のモチベーションが起きにくいという批判もあります。

 これが、電力大量消費型の企業が利益を上げていると書かれている理由です。制度上の問題点を指摘しているということです。

風力は太陽光より良いエネルギーか?

『なにはともあれ、風力と太陽光は将来のエネルギーミックスの中心になることは間違いがない。特に風力を無視してやってはいけない。今年2012年の前半だけですでに1GW分の施設が完成し、これは昨年より26%多い数字だ。ついに、風力発電だけで合計30GWの大台に乗った。基本的には陸上の風力発電施設だが、すでに全体の電力の9.2%を稼ぎ出している。

 ドイツの風力発電は、まさしく成長産業だ。コンサルティング会社のOebermoehle C&Mの調査によると、陸上風力発電は今年さらに2.3GW分の施設増加が見込まれている。洋上風力については、2014年の末までにおよそ1GWの施設が建設される見通しとなっている。さらにドイツの風力発電産業は国内だけでなく、海外での成長も見込まれている。』

 風力発電は、太陽光発電に比べてコストがすでに十分安くなっていると考えられています。原発や石炭などの火力発電には、日本ほどではありませんが、ドイツではかなりの補助金がこれまでに政府から投入されてきています。これらの補助金や原発のバックエンドの費用を合わせて計算すると、風力発電は原子力や既存の化石燃料による発電と競争力ですでに勝っているという政府関係機関のリポートもあるほどです。

 ドイツでは、陸上の風力の増加はそろそろ限界で、旧式の風力施設を建て直す、いわゆるリパワーリングへシフトが始まっています。一方で、陸上から海上へのシフト、洋上風力への期待がさらに高まっています。また、記述にあるように、海外での風力発電施設の建設などプロジェクトの輸出やコンサルティングビジネスも盛んになっています。

太陽光の陰り

『風力の成長とは裏腹に、再生エネ法の改正が実施されることになって、太陽光の部門には暗い影が落ちている。全電力の5.3%という高い割合を占めるまでになったにもかかわらず、ドイツの太陽光関連企業は厳しい波にさらされており、たとえば、最大のパネルメーカーQ-Cellsでさえその例外でない。この1年間で、ソーラーミレニアム、SolonSolarhybridなどが次々と破たんした。膨大な在庫、海外諸国との安売り競争、補助の減額などいずれも厳しい闘いを強いられる原因となった。現状では、ドイツ企業はこの闘いに敗れたように見える。』

 ドイツの太陽光産業の陰りは、隠しようもありません。2008年に世界を制したQ-Cellsの破綻はその一番象徴的な例でしょう。再生エネ法による買い取り価格の減額はわずかに緩やかにはなりましたが、時間を追って下がっていきます。すでに日本の買い取り価格の3分の1近くになっており、ドイツの太陽光は再生エネ法からのゆっくりとした離脱の時期を迎えています。また、太陽光発電に関しては、賦課金の総額の半分以上を占めるにもかかわらず、実際の発電量は5分の1にしかすぎず、この点でも非効率との批判を浴びています。これも設置費用がさらに安くなること、再生エネ法からの離脱傾向が進むことで、いずれ非難の矢面に立たずとも済むことになるでしょう。

 肝心なことは、ドイツの太陽光産業が死んだわけはないということです。バブル的な成長はないものの、拡大傾向はまだ続くことになります。

投資の観点から見た再生エネの将来(上)の締めとして

 この投資マガジンの特集の目的は、「再生エネは投資価値あり」ということです。もちろん、ここまで読んだのでは、反対のことを言いたいのではと思うかもしれません。ただ、先に書いたようにドイツの現状を網羅しているのであえてそのまま使いました。後半(下)は、投資をするのに値する理由をこれもコンパクトにまとめています。

以上


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