2012. 6.24 「固定価格買い取り制度」の利用法
いろいろな問題点が、再生可能エネルギーの推進派、反対派の両方から指摘されている『固定価格買い取り制度』ですが、パブリックコメントを受けて最終的にこの18日に内容が確定しました。
制度が間もなくスタートします。もちろん、再生可能エネルギーの普及に対して、重要なプラスの役割を果たしてくれることは違いないと思います。
そこで、今回は、この制度をどのように利用すべきか、前向きなビジネスの観点から取り上げてみます。これまでの視点とは少し別角度です。。
○全体像
エネルギー源によって、ばらつきはありますが、全体として高い買い取り価格になっています。しかし、だからと言って事業をやって必ず儲かるかというと、そうは簡単にはいかないというのが正直言ったところです。念のためですが、だから、ダメということではありません。通常の事業の企画のようにやはり慎重に対処しましょうということです。
では、その理由はというと、簡単にいって2つあります。
ひとつは、日本の高コスト体質。
もうひとつは、一種のバブル的な反応です。
高コストというのは、特に建設費など人件費に起因する点です。また、ヨーロッパに比べて市場が閉鎖的なので、設備の価格が落ち切らないことです。よって、例えばドイツの倍の買い取りになっているエネルギー源の場合でも、事業の初期コストでその分を使い果たしてしまうケースもあります。
もうひとつのバブル的な反応とは、例えば土地の値段です。特にメガソーラーは広大な土地が必要です。また、土地の地理的な条件は、風力(風況)や太陽光(日照)の事業の成否を大きく左右する要素で、国土の狭い日本ではいわゆる適地はそれほど多い訳ではありません。よって、高い買い取り価格で儲かりそうだと周囲から見えた瞬間に、すでに土地の賃借料が跳ね上がったという声があちらこちらで聞こえてきます。
また、エリアの電力会社への系統への接続(これも敷地の場所に左右されることが多いのですが)が簡単には行かないケースが少なからずありそうだとも言われています。つまり、施設を作っても系統連系ができないとなれば、実際には事業化ができないことになります。
ということで、お気を付けいただきたいのは、『収益事業実現はそれほど簡単ではない。』ということです。なんとなく儲かる事業と考えたり、一攫千金の儲け話を持ってこられたりした時には、一度上記のことを思い出してみてください。
○エネルギー源別の事業性の見方
そうはいっても、決して消極的にだけ対処する必要はありません。もちろん、このシステムは再生エネ普及の切り札であることは変わりないのです。ここでは、個別のエネルギー別に今回のFITの利用法を考えてみます。
◇太陽光発電
・メガソーラー 〜資金を持つ企業や自治体参入のチャンス
すでにいくつものメガソーラー計画が発表されています。いわゆる異業種からの参入も目立ちます。最近報道されたのは、たとえば、大阪ガスによる合計3.5MWの計画で、岡山や大阪など3か所で行われます。また、震災復興のツールとして東北地方での計画もたくさんあります。南相馬市のものは、100MWというまさしく国内最大級、世界に持って行ってもトップを争う巨大な計画です。東芝と市も出資の予定と聞いています。
メガソーラーとなると、資金の単位が違ってきます。南相馬市ではで300億円と言われています。だいたい、日本ではこの規模になると1MWあたり3億円ぐらいの初期投資になるようです。コストが低くなっているドイツ当たりでは、すでに1MW2億円を切っていると思われます。
日照や施設コスト以外のポイントは、3つです。
1.土地の確保 自治体との連携なしにはほぼ不可能です。さらに土地の賃貸料が収支を大きく左右します。
2.資金の確保 単純です。資金力が必要です。
3.系統連系 この規模になると、とにかく地元の電力会社との事前調整が100%必要です。これが、結構ややこ しいのです。
上記のことがクリアできれば、買い取り価格の42円は利益を上げやすい数字だと思います。
実は、南相馬市のように自治体自身が係わるのが、土地や資金などを考えると一番良い方法かもしれません。群馬の太田市は自らがメガソーラーを持ち、利益分を住宅の屋根への補助に使うなどの連動で再生エネを飛躍的に伸ばしています。自治体で、『20××年までに100%再生エネ』ということを目標に掲げたいとすれば、再生エネ事業を自ら行うのは、悪くない選択だと思いますし、今後こういったケースが増えるでしょう。
こちらも、おもしろい数字になっています。
専門家のご協力をいただいたうえで、計算をしてみるとなかなかの収支が見えてきます。自治体によって、太陽光パネルへの補助が大きく違うため一般論としてはなかなか言えないのですが、東京や神奈川などのケースを見ると、8年半から9年くらいでの投資資金の回収の可能性が見えてきます。そうなると、10年の買取りまでの残り1年半ほどが「丸儲け」となります。さらに、そのあとはというと、例えば安い蓄電池がすでに普及している可能性が高いので、うまく使いながら家庭での電気をすべて太陽光で賄うことができることがあるかもしれません。
ただし、ポイントは設置費用です。価格が大分下がって某家電量販店では40万円/1kWという価格が設定されているようです。神奈川で10年以内の償却というのは、実は、最安値36.6万円としているからです。これは、東大総長室アドバイザーの村沢氏が「かながわソーラーセンター」というシステムで実現したものです。一括して住民からの設置希望を集め、注文の規模を大きくします。まとめてメーカーなどと価格交渉をするので価格を下げることが可能になるのです。設置業者も地元を中心に登録されています。さらに、金融機関の融資紹介も行っています。
・屋根貸し 〜参入しやすい仕組みの登場
今回、屋根だけを事業をする人に貸すというシステムが認められました。これが「屋根貸し」です。トータル10kWを越えれば、全量買い取りの対象になります。
民間でも、自治体でも、一定のノウハウさえあれば、比較的簡単に始められる事業となります。メガソーラーに比べて敷居が低いので、関心を持たれている自治体も多いようです。特別高圧の対象とならない2MW以下が狙い目です。
◇風力発電
・陸上風力 〜再び右肩上がりの勢い
太陽光ほど注目を集めていないのは、ひとつは買い取り価格のためだと思われます。20kW以上で23.1円が、素晴らしく魅力的というわけではないようです。この額は、例えばこれはドイツの倍以上の数字です。しかし、はじめにお話ししたように、建設などの高コスト体質があるため、必ずしも簡単に収益が見込めるというわけではないのです。また、風の質が異なり、台風や落雷という独自リスクを抱える日本ではそのまま欧州の風車を持ってくるだけというわけにはいかないこともコスト影響要因のひとつです。さらに、風況が良い場所が北海道、東北、九州などに偏っており、その北海道で電力会社が系統連系に消極的なこともマイナス要因です。
ただし、もともとのポテンシャルは高く、現在開発中の三重の巨大ウインドファームのように、風況を精査したうえで進むプロジェクトもたくさんあり、いったん冷えていたマーケットが右肩上がりを取り戻すと思われます。
200kW未満の57.75円は、十分に小型風車マーケットを動かす原動力になりそうで、小型の風車メーカーには問い合わせがかなり寄せられています。
・洋上風力 〜将来の中心風車は浮体式か
今回のFITでは、実績がないと買い取り価格の設定が見送られた洋上風力発電です。しかし、海に囲まれた日本でのポテンシャルは非常に高く、将来は、半分が洋上風力になると見られています。また、遠浅の海が少ない日本では、水深100m以上では設置が難しい着床式より、ぷかぷか海に浮く浮体式の方が向いていると言われています。日本風力発電協会の数字では、2050年での全体発電能力5000万キロワットのうちの3分の1以上で浮体式を想定しています。
浮体式の実証は、今年の3次補正から125億円の予算が付き、現在福島沖を想定して進められています。3月のリポートでご報告した通り、いま世界で稼働する大型の浮体式風力発電施設はノルウェーにしかありません。洋上風力は、風車製造の集積基地に大きな雇用を生みだすと言われています。地域発展のためにも、成功を期待したいと思います。
(資料:日本風力発電協会)
◇小水力発電
・用水路発電 〜自治体の協力が欠かせず
もともと、日本は資源が豊富な水力発電です。ポテンシャルは高いのです。
小水力発電は、大型ダムと違って地産地消の典型ともいえる発電形態です。地元の川や用水路を使って、一定の電力を作り続けます。いわゆるベース電源になり得るところが、天気や時間に左右される太陽光や風力とは違ったメリットを持っています。
まず、1000kW以下なら、場所によっては十分採算が取れる今回の数字(30.45円)だと言われています。
ただし、問題は以前から変わらず、いわゆる「水利権」です。手続きに年単位の時間がかかるのが通常ということで、大きなネックになる場合もあります。このため、自治体と協力して進めることが大変大事になります。また、規制緩和がさらに進むかどうかが、普及のカギでもあります。
・マイクロ水力 〜隠れたブームになるか
さらに、200kW未満でも、35.7円という買い取りならば、事業の可能性が出てきました。水車や発電機の価格は、小さくなってもあまり安くならないため、いわゆるマイクロ水力では、これまではほとんどペイしませんでした。しかし、条件によりますが、これからは50kW程度から採算が合うというケースも出てきているようです。
◇地熱発電
・大型地熱 〜リスクヘッジがキーポイント
日本は世界で、アメリカ、インドネシアに次ぐ3番目の地熱資源国です。
しかし、長い間なかなか発電所ができませんでした。調査に長期間かかること、工事の期間や費用も同様です。また、せっかく掘っても熱源が経年劣化することも少なくありません。百億円単位の投資とリスクが合わないとも言われます。また、地熱発電の適地の8割が国立公園内にあることから、資源の利用が難しかったということもあります。さらに、温泉などの観光業への影響も心配の対象でした。
一応、規制緩和が進んで公園への斜め掘りが認められる方向です。いずれにせよ、いかにリスクヘッジできるかが、地熱拡大のキーになります。
・バイナリー発電 〜隠れたブームその2
こちらは、温泉のお湯程度の熱を使うものです。42円という買い取り額がにわかに魅力を感じさせているようです。通常の地熱発電に比べると時間も費用もぐっと少なくて済みます。その分リスクも低くなります。プラントを収めたコンテナを運んでくるだけで、何か月以下でスタートできるというシステムもあります。
もちろん、一定の温度と湯量が必要です。思ったほど多くのポテンシャルは無いという見方もありますが、条件が整えば、こちらもベースの電源になり得るため、地域のエネルギーの自立にも大きな貢献が期待されます。
ただ、コストの実績がないため、7月1日からの買い取り対象にはならず、実績ができるまでの時間がかかる可能性もあります。
◇バイオマス
・メタン発酵ガス化 〜日本でのブームは来るか?
ドイツでは、バイオガスプラントが昨年7200基を越えました。今年の1月からの新FITでの買い取り価格が下がることから、かなりの駆け込みがあったことも手伝いました。すでに、家畜系廃棄物の利用というより、エネルギー作物(主にトウモロコシ)による発酵によるバイオガス発電ビジネスとなっていました。少なくとも前年までは、かなり割のいい事業だったことは間違いないようで、農業従事者を中心とした事業家はかなり良い利益を上げていました。ただし、買い取り価格の下落で、メタンガスを発電に使わずにそのままガス会社に販売し、ガス会社はそれを直接天然ガスパイプラインに入れるという新しい形が起きているとも聞きます。
日本の場合は、いくつかの条件でバイオガス発電(多くはCHP)が進んできませんでした。大きいのは、これまでの電力の買い取り価格の安さと出来た消化液を撒く場所がないことでした。今回のFITで前者はかなり解消されました。ただし、まだ問題は残っています。消化液の肥料としての有効性がさらに浸透すれば、爆発はせずとも広がりを見せるのではないかと期待しています。
・木質系バイオマス 〜原料の調達がすべて
バイオマスが他の再生エネと決定的に違うのは、他の再生エネは原料を買う必要がないことです。よって、常に原料のコストとの闘いでした。これは、そのまま価格変動のリスクになり、原料の値上げで立ち行かなくなったケースは数知れません。別の見方をすると、原料の取り合いになる危険を常に秘めているということです。
今回も、一方でパルプ業界との取り合いの話も出ています。また、何十年も繰り返されている議論、山に99%残る林地残材をどうやってコストを掛けずに出してくるかという問題に今のところほとんど解決策がありません。
よって、今回のFITでも原料の出所がクリアにならないとなかなか事業性を見いだせないのではないかと思われます。
○まとめ)
7月1日、いわゆる日本版のFITがスタートします。
最初は混乱もあるかもしれません。手直しもあるでしょう。しかし、日本の再生可能エネルギーの普及にとって、間違いなく重要な始まりになります。
また、これは新しいビジネスの始まりでもあります。よい形でビジネスができて行けば、同時に制度も再生エネもよい方向で育っていくと思います。
再生エネの広がりは、関連の産業育成や地元でのファイナンスなどの新しい動きを生む可能性を秘めています。それは、地域の活性化を呼び起こすはずです。再生エネというツールを使い、日本全体の立て直しが地方から進むことを期待したいと思います。
以上
JAPAN RENEWABLE-ENERGY
RESEARCH INSTITUTE : JRRI
略称:再生エネ総研
〒224-0001
横浜市都筑区中川2-9-3-403
2-9-3-403, Nakagawa, Tsuduki-ku, Yokohama-city 224-0001 Japan
WEB: http://www.jrri.jp
MAIL: info@jrri.jp
Twitter: @kit_jrri