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日本再生可能エネルギー総合研究所は、再生可能エネルギー普及のための情報収集と発信を行っています。

リポートReport

 2012. 5. 6 再生エネ先進国ドイツで、今、起きていること
            緊急の課題は、高圧送電線の新設
                                    

○はじめに

 さて、久しぶりに政策、制度と再生エネを取り巻く環境についてのリポートです。
 テーマは、再生可能エネルギー先進国ドイツで、今、何が起きているか、です。今年の初頭に続いてのテーマとなります。

 日本では、先月下旬にやっと全量買い取り制度の買い取り価格の原案が示されました。7月からの制度がいよいよスタートするというより、日本の再生可能エネルギー普及に向けての第一歩だと言えるでしょう。
 さて、ドイツで今、エネルギー問題で最も話題になっているのは何でしょう。
 年明け以来のドイツのFIT制度(EEG:再生可能エネルギー法)の大幅な変更だと思われますか。もちろん、太陽光発電の電力の買い取りが大幅に減額になったことは大きな出来事ですし、かつての世界一の太陽光パネル製造企業であるQセルズの破綻を引き起こす最後の一撃になったことも記憶に新しいところです。

○ドイツで最もホットな話題は

 実は、今一番のホットで、そして深刻な話題は、ドイツ国内の新しい送電ネット建設なのです。ご記憶にある方もおられると思います。今年初頭のメルマガで書いた再生エネの特徴への対応策の柱のひとつ「送電網の充実」です。

 ニュースソースは2つあります。一つは、ドイツの最高級週刊誌「シュピーゲル」に3月に掲載されたドイツ連邦環境大臣のインタビュー記事。もう一つは、そのシュピーゲルを含む各週刊誌に先月一斉に挟み込まれて配布されたドイツ連邦経済技術省の冊子です。

○『我々は事態を掌握している』(シュピーゲル誌2012年第10号)

 まるで戦争や紛争が起きているかのようなタイトルが踊るのが、レトゲン環境大臣のインタビュー記事です。
 シュピーゲル側の質問も、「脱原発に向けて努力が足りないではないか」や、日本でもお決まりのように繰り返される「フランスやチェコの原発の電気を買っているのでは」、また「原発行政が環境省と経済技術省にまたがっていることは問題ないのか」、さらに「エネルギーの変革は国民への負担が重すぎないか」など、厳しいと同時になかなか興味深いものです。それぞれ解説をしたいのですが、長くなるため別の機会へと譲ります。
 3ページに及ぶインタビューの中で最も紙面を割いているのが、“送電ネットの構築”の問題です。

 質問側の論点は以下の通りです。
・脱原発というが、代替となる再生エネ電力の増加に対応できる大規模な送電設備というインフラが出来ていない。このままでは、大停電の危険もあり得るのではないか。
・送電設備の建設が進んでいないのは、政府のきちんとした方針がないためである。

 これに対する環境大臣の解答は、
・もちろん、送電ネットの整備は緊急の課題である。しかし、それは何年、何十年もかかる。政府は最大限の努力を行い、順調に建設を進めている。(そこで登場するのが)我々は事態を掌握している。

 そして、驚くべきなのはインタビュー記事の紙面に載った以下の数字です。
 2020年までに再生可能エネルギー電力に必要な高圧送電線の総延長4450km
 そのうち現在までに完成した送電線は100km
 2020年までに必要なコストは100億ユーロ以上 (出典:ドイツエネルギー機構)

○おさらいとして論点の整理

 さて、なぜこんなに送電インフラが重要視されているのでしょう。思い出していただくためにも、その理由をおさらいしておきます。

1.まず、再生可能エネルギーからの電力が増加しているので、その電力をネットにつなげるために送電線が新たに必要になります。特に洋上風力発電など風力発電が急拡大しているドイツ北部がもっとも必要性が高くなっています。
2.1とも関連しますが、北部には電力を多消費する工場などがありません。そのため、特に天候などの関係で過剰に発電された場合も含めて、西部や南部の工業地帯への電力を送るネットがどうしても必要なのです。今年の初頭に北で電力が余っていたのに、南に送る手段がなく、南が電力不足になったということがありました。

 つまり、まずは再生可能エネルギーの電力の増加への対応、そして、太陽まかせ風まかせの発電の不安定さを平準化するためにも重要視されています。シュピーゲルの質問者は、ネット運営会社は停電を起こさないために綱渡りで日々電力を融通している、と環境大臣に迫っています。再生エネ電力の増加と送電網の新設とはまさに、表裏一体で進められるべきものなのです。

 もう一つ解説が必要なのは、政府の対応の不備についてです。「政府のきちんとした方針がない」と指摘されているのは、こういうことです。

 今、急激に伸びているのが洋上風力発電です。太陽光の買い取りがほぼ全滅状態の中でさらに注目を浴びています。ドイツには海が北側にしかないのですべて北部ドイツの設置になります。ところが、民間の会社や当該の北部の州政府は、中央政府が洋上風力をどのように将来伸ばしていこうとしているのか指針を示していないというのです。よって、当然必要になるインフラである洋上風力からの電力を運ぶ送電線への投資が進めにくいという理屈です。大金をかけて作っても、政府の方針が覆って洋上風力も縮小となると、投資が回収できなくなるというわけです。だから、はっきりしろと北部の州政府も中央に陳情しています。実際に、ドイツ最大の発電会社RWEが建設している洋上風力発電所の完成がつなぐ送電線がないために、遅れたりもしています。

 方針がしっかりしていないと政府を批判するのはどの国でも同じで、ドイツでさえそうなのだと思うと少しおかしくなります。まあ、批判されるレベルが、日本とはだいぶん違いますが。。。

○『新しい送電ネット?必要です!』(ドイツ連邦経済技術省の小冊子のタイトル)

 そこで、ということでしょうか、経済技術省は何十万部ものパンフレットを無料で週刊誌に折り込みました。B5番に近いサイズの12ページです。タイトルは、反原発の合言葉にもなった「原発?いりません!(Atomkraftwerk? Nein danke!)」をもじったものです。
 そこには、2022年の脱原発までに、風力や太陽光、さらに新設される天然ガス発電所などでエネルギー変革を進める。その電力を適切に供給するためには、送電ネットの新設が「最優先事項」であるとはっきり書かれています。

○送電ネット強化とさらなる対策

 パンフレットでは、送電ネット強化の必要性の説明の中で具体的にいくつかの数字があげられているので抜き出しておきましょう。ドイツの将来の考え方がよく見えます。

・洋上風力発電 2030年までに新設される発電能力、25GW
・天然ガス、石炭火力発電 2022年までの新たな発電能力 17GW
・太陽光発電 2010年で年間発電量11,500GWh、2020年はさらに増加
・バイオマス、バイオガス 2020年までに年間発電量50,000GWh
・高圧送電線 2015年までに400kmを強化、850kmの新設が必要
・電力貯蔵 2020年までに13GWの容量へと増加

 大幅な減額となった太陽光発電の伸びを判断しきれずにいることもよくわかります。
 ここで注目すべきなのは、「電力貯蔵」です。さりげなく数字を上げていますが、これも今後の重要なポイントです。つまり、再生可能エネルギー電力の不安定性解消の問題です。送電網でいくら地域を越えて電力を送っても、全体として電力が足りていれば結局余ってしまうのです。
 これを解消するためには、電力を貯蔵しなければなりません。これができて初めて不安定性が解消され、無駄な施設をなくして電力の需給の平準化ができるのです。ドイツ政府もそこに大きな注目をしています。現状では、電力貯蔵はほぼ100%が揚水発電で10GWの容量、これは大規模発電所10基分です。これを8年後に30%アップしようというのです。揚水発電の増加は立地などを考えれば容易でないため、これに替わる蓄電池や水素などによるエネルギー貯蔵の開発が急ピッチで進んでいます。

○ドイツのエネルギー政策とは

 このほか、パンフレットでは、いくつかの点が説明されています。ドイツ連邦経済技術省の小冊子

 3ページには、再生エネ電力の特徴をもとにした細かい対応策が書かれています。
 例えば、昼夜の差や天候による発電量の幅が大きいため、送電線は双方向で整備され、送電の管理にスマートマネージメントが必要なことです。また数字は前記と違っているのですが、2020年までに500億ユーロの投資が必要としています。

 4ページは、停電の話です。「停電?いりません!」とのタイトル。停電回避のためにも送電ネットの強化が必要という主張です。

 6ページは、送電ネット建設に係わる企業サイドの助成金の制度です。
 ひとつは、送電ネットを建設する側への補助で、EnWGNABEGという2つの法律で緊急に必要な送電線の建設を促進させる仕組みです。
 また送電ネットを新設することで送電線の利用料が上がります。すでに電気料金への跳ね返りは、今年になってFIT制度による料金の上昇を上回っています。このため特に電気を多く使う産業に対しては、国際競争力を保つためにStromNEVという法律で企業への電気料金の軽減策を決めています。

ここで余計なひと言です。

 日本で原発の再稼働や再生エネ導入の議論の中で、例えば財界はよく競争力がなくなるから再稼働するべきとか再生エネ導入に消極的な意見を主張します。エネルギー政策は、何より政治的かつ総合的なイベントです。もし電気料金が高くなるならば補助をするなりの政策を取ることも含めて政治的に解決するしかないのです。日本全体のエネルギー政策という大方針を決めて、それから個別の実施策を考えていくのが政治です。
 ドイツははっきりしています。企業向けの電力料金は家庭の半分以下です。さらにあれやこれやで前記のように送電ネットの新設による料金も企業には軽減しています。もちろんこれらは税金なので、国民が負担しているのです。ただし、法律ですから国会の決議事項で、国民にすべてを明らかにしたうえで国民にいやな政策を実行しています。誰にでも耳触りのいいことを言っていれば、何も進まず何も解決しないのは、今の日本を見ていればよくわかることです。
 付け加えておきますが、ドイツの電力料金の25%は税金です。お金の出所はこのあたりにあります。さらに再び強調しておきますが、25%の税金がかかり、再生可能エネルギーの賦課金が毎月1100円あっても、ドイツの家庭の電力料金は日本の家庭の電力料金とほぼ同額です。いかに、日本の電力料金が高いかかみしめてください。

○最後に

 いささか脱線もしましたが、今、ドイツで起きていること、つまり原発を止めて再生可能エネルギーを進めていったときに起きること、必要なことの重要ポイントのひとつをご紹介したつもりです。

 そこには、脱原発と再生エネの推進というエネルギーの基本政策を進めるドイツという国の厳しい現実も見え隠れします。ただし、彼らがその先に描いているのはクリーンなエネルギーによる自立とドイツ自らが世界を主導する新しい産業の輝かしい未来です。目の前の具体的な事柄だけでなく、これらの思想も感じていただけたら幸いです。

以上


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