2012. 5.20 「全量買い取り制度の価格」
さて、政省例案が公表され、パブリックコメントも始まりました。
前回、本当に簡単にあえて問題点を中心に指摘しましたが、大きな反響をいただきました。ですので、しつこいようですがもう一度取り上げることにしました。
そのために、ドイツの現行制度もおさらいをしておいた方が良いと思い、まずはそこからスタートします。
○ドイツの全量買い取り制度(EEG)と制度のポイント
ドイツの法律の名前も「再生可能エネルギー法」といいます。Erneuerbare Energien Gesetz、略してEEG(ドイツ語で、エーエーゲ−と発音します。)
この名前が付いた最初の法律が施行されたのが12年前の2000年です。その後3回改正され(2004年、2009年、そして2012年)、今年1月1日に最新版(EEG 2012)が施行されたばかりです。
すでに長い経験があるわけです。
日本の制度もドイツのこの法律をお手本のひとつとして今回の法律を作ったので、たいへん似ています。再生可能エネルギーの普及を促進するために、「全量買い取り制度」といって、再生可能エネルギーからの電力を市場より高い価格で全部電力会社が買い取るというのが基本的な趣旨です。
勘違いしている人も少し残っていいますが、ここには政府のお金(税金)は一切使われません。高く買い取った分は電力料金に上乗せ(賦課金を)して一般の消費者が負担するからです。
ですから、なによりポイントは、買い取り価格にあります。
ここは肝心なところなので、丁寧に書きます。つまり、買い取り価格が安すぎて発電する側の事業が成り立たないなら、誰も発電に参入しようとしません。一方、買い取り価格が高すぎる(簡単にじゃぶじゃぶと稼げるということ)と、一気に事業者が殺到して、急激に賦課金が積み上がり、まずは電気料金が跳ね上がってしまいます。
○政策無き買い取り価格決定の意味すること
このため、電力の増加と電力料金の変化に重大な影響を与える買い取り価格の決定は、慎重に時間をかけて行う必要があります。
ここで気づかれる人も多いと思います。決定といっても、大前提として再生可能エネルギーの電力を、「いつまで」に「どのくらいの割合(エネルギーミックス)」にするかという戦略、いいかえればエネルギー政策がないと価格を決めようがないことに、です。価格は、あくまでも「手段」です。エネルギー政策という「目的」が無い「手段」は成立しません。さらに、後でも書きますが、実際に欧州で起きている電力料金の急上昇というリスクを回避するためにも、せっかく(?)後追いをしている日本は、先立ちを賢く利用すべきなのです。
日本が福島の事故後、早急にやるべきだったエネルギー政策の変更を今年の9月まで先送りしたまま、全量買い取り価格を今決めようとしていることは、本当に不可思議としか言いようがありません。
○買い取り価格の比較(日本とドイツ)
実は、ドイツの買い取り価格はもっと複雑で簡単に並べることはできません。それをあえて、比較していることをご理解ください。
もちろん、発電規模によっても違いますし、たとえば、バイオガスなら基本買い取り料金があったうえ、使う原料の種類によっていわゆる「ボーナス」が加算される仕組みになっています。さらに、これも考えてみれば当たり前なのですが、発電をスタートする年数が遅くなればなるほど買い取りが安くなります。(エネルギーの種類によって、据え置き年数もあります。)
(条件:1ユーロ=105円換算、税抜き)
◇太陽光
*日本 40.0円
*ドイツ
屋上 1MW以下 17.2円
地上 10MW以下 14.0円
地上 10MW以上 買い取りなし
◇風力
*日本 20kW以上 22.0円
20kW未満 55.0円
*ドイツ 陸上 9.9円
洋上 15.8円〜20.0円
◇地熱
*日本 1.5万kW以上 26.0円
1.5万kW未満 40.0円
*ドイツ 26.3円
◇中小水力
*日本 1000kW以上3万kW未満
200kW以上1000kW未満
200kW未満 34.0円
*ドイツ 500kW以下 13.3円
◇バイオマス
*日本 ガス化 39.0円
未利用木材 32.0円
一般木材 24.0円
*ドイツ 5MW以下 11.6円〜16.8円
価格の決定過程についての問題は、前回のメルマガに記しましたので割愛します。
日本の問題は価格以外にも多岐にわたっています。現場の声がそれを示しています。
例えば、カテゴリーの中に抜けているエネルギーがいくつもあるのです。お気づきの様に洋上風力がありません。また、小さな地熱(温泉)のバイナリー発電もどこに入るのか、というか、そもそも買い取りの対象になるかどうかも決まっていないのです。理由は、「日本には先例がないので買い取りの価格が決められない」からということだそうです。
法律が決まったのが、昨年の8月。価格を決める委員会がメンバーの選定でもめにもめて年を越え、委員長提案が出たのが4月の末です。一時は施行に間に合わないという説がまことしやかに流れました。スピード感の無さはあきれるばかりです。
一方で、土地の値段が吊り上げられているとの声があちらこちらから聞こえてきています。お金目当ての参入者がこれまでの真面目な事業者を押しのけ、新たなバブルを招くのではともささやかれます。さらには、実際に発電できない施設があちらこちら建つのではと心配する人もたくさんいるほどです。
○ドイツの混乱とその意味
ご存知のように先行しているドイツでも今年になってある種の混乱が続いています。
今年の1月にスタートしたばかりの新しい買い取り価格が大幅に減額されるのです。太陽光発電は昨年ドイツでまさに爆発的に伸びました。パネルの価格の低下がその主な原因で、昨年1年間に世界で新設された太陽光施設の7分の1がドイツでの設置だったのです。これ以上の電力料金の値上げを避けたい政府が大慌てで政策変更を行いました。この中心となったのが、政権与党の環境大臣のレトゲン氏でした。
実は、今月になってさらに混乱に拍車がかかる事態が起きています。まずは、太陽光に対する助成の減額法案がドイツ連邦の上院でストップがかかってしまいました。国民の中にある根強い反対意見を反映した形です。さらに、先週行われた最重要な州の議会選挙で与党CDUが歴史的大敗を喫したのです。その余波でメルケル首相は環境大臣を更迭しました。もともと、太陽光の買い取り価格削減推進の中心となっていたのが連立しているFDP(メルケル首相はCDU)で、存在感を失ってきていたFDPが起死回生の一発として提案したという政治的背景があったとも言われています。結果としては、批判をかわすために自分の党の大臣を辞めさせることになりました。
ドイツの政治もやれやれという感じで、東西どこへ行っても情けないところが垣間見えるのが困ったところです。
○ドイツの「目的」に戻ると
しかし、もう一度ドイツの「目的」に戻って少し冷静に見る必要があります。
もともと、この制度を取り入れたのは2つの目的がありました。再生可能エネルギーを中心としたエネルギー体系に全体を変換させることの理由です。
1.「安全な」エネルギーの確保
ひとつには、『脱原発』です。ドイツでは長い間『原発』は政治の争点でした。数々の選挙でも、原発をテーマに闘われてきました。さらにチェルノブイリの事故で放射線の恐怖を多くの人が感じました。2000km離れていても、実際に高濃度の放射線が検出されたからです。
また、これはヨーロッパの他の国にも言えるのですが、ロシアの天然ガスからの脱却です。いわゆるエネルギーの安全保障、自国でのエネルギー源の確保ということです。
2.新しい産業の創出
どちらかというと今はこちらの要請が大きいかもしれません。産業立国を自称するドイツは、次の経済の柱を再生可能エネルギー産業にかけています。いち早く技術開発と事業化を行って世界の再生エネのトップになる。そういう明確な目的です。自国の産業の足場を固めるためにもこの制度は有効に働くと考えられたのです。太陽光で一時世界を制し、次は洋上風力での覇権を狙っています。
確かに、今は一種の混乱があります。政治的な駆け引きがさらに足を引っ張っているようにも見えます。しかし、これはある意味で『修正局面』なのだと思います。再生エネの電力があまりにも早く増加すると、電力料金への影響だけでなく、国内の送配電ネットへつなぐ送電線の整備が間に合わないこと、不安定電源の急増による停電の危険なども増えるのです。右肩上がりの再生エネ電力ですが、昨年は太陽光パネルの価格が下がったこともあり、異常な伸びを示しました。これを本来のカーブへもどす作業を行っているので、決して一部でいうような「撤退」ということではありません。
かばいだてをするわけではありませんが、この買い取り価格の決定というのは本当に難しいと思います。経済の行方も細かく読んだうえで、それでも失敗する可能性から逃れられないということです。それだけたいへんなものを決めているという覚悟が、日本にもあると信じたいと思うのですが。
以上
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