2012. 4. 8 近未来型の風力発電
Statoil社のヒアリング対象者は、
新型風力セクションのトップ:Ulla氏
Hywindの開発責任者:Haar氏
Hywindの技術責任者:Byklum氏
新エネ、風力の特別技術者:Ulriksen氏 です。
2012年3月12日にStatoil社オスロで行いました。
1.はじめに
(1)着床式と浮体式
これまで進められている洋上風力発電施設は、ほぼ100%が風車を海底に固定させる着床式で、水深数十メートル以下の遠浅の場所に設置されています。イギリスなどでは数百MWという巨大プロジェクトも行われています。
一方、日本の海は海岸からすぐに深くなるところが多いのが特徴で、着床式に向く場所が少ないと言われています。
100m前後より深い場所で風力発電施設を稼働させるために、この風車自体を海に浮かべる浮体式があり、検討から実証、さらに実用の段階を迎えています。この浮体式こそ日本の海に向く将来の風力発電の形という意見もあり、日本での検討も急がれているといえます。
(2)世界で唯一の大型浮体式施設
2.Hywindプロジェクトへの俯瞰
沖合20kmに総発電能力317MWの施設を作るイギリスのSheringham Shoalプロジェクト(着床式)、合計の設備能力9〜13GWというさらなる巨大事業であるイギリスのDogger Bank のプロジェクト(着床式)、それに本リポート対象のHywind(ハイウインド)プロジェクトです。
Hywindプロジェクトこれまでの流れとこの先の計画は、以下の通りです。
2001年 コンセプト作り
2005年 モデルテスト
2009年 現在のフルスケールのプロトタイプの完成
今後5年以内 3基〜6基のパイロットパークの建設
10年以内 500MW〜1GWの大型パークの建設
3.Hywindのデータなど詳細
(1)基礎データ
風力タービン: 2.3MW(ドイツ、シーメンス社製)
羽根の直径: 83.4m
タービンの重さ:138トン
タービンの位置 65m(海面より)
海面におけるタワーの直径 6m
タワーの基礎部分の直径 8m
アンカーの数 3個
設置可能な深さ 海面下70〜120m
*タワーは実は3.5MW用のもの。
安全のために大型のタワーにしています。
(2)設置およびその後の経過
2009年
4月 タワーを現地に設置
5月 風力タービンの取り付け
6月 風車を現地にアンカーで固定
8月 機器的な設置の完了
9月 オートモードで運転(各種風速)
11月 試運転完了、テストスタート
2010年
8月 1年目の予定期点検の完了
9月 オートモードで運転(秒速25m以下)
2011年
6月 オフショアの安全訓練
8月 2年目の定期点検の完了
1)発電量と稼働率
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発電量(MWh) |
稼働率(%) |
特記 |
2009年 |
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11〜12月 |
198 |
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スタートアップと試運転 |
2010年 |
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第1四半期 |
1,575 |
29 |
500時間運転 |
第2四半期 |
1,785 |
35 |
改良のため一時停止 |
第3四半期 |
1,858 |
37 |
1年目の定期検査 |
第4四半期 |
2,225 |
43 |
風速25mまで運転 |
年間 |
7,443 |
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2011年 |
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第1四半期 |
2,490 |
51 |
1月に電気系統で停止 |
第2四半期 |
1,953 |
41 |
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第3四半期 |
2,450 |
48 |
2年目の定期検査 |
第4四半期 |
3,201 |
63 |
稼働率平均50%達成 |
年間 |
10,094 |
50 |
|
発電量では、昨年はトータルで10GWhを達成しました。これは、ノルウェーの平均家庭の500戸分を賄う電力量です。
全体として、試運転後、大変順調に稼働していることがわかります。運転開始時は風速18mを上限として運転していましたが、2010年第4四半期以来、風速25mまでの風の中での発電を続けています。実際には30mの風でも発電したようです。
大きなキーポイントが、『モーションコントローラー』システムです。これは、自動的にタワーを安定させるシステムで、タワーの揺れを2〜3度以内に抑えるようになっています。タービンを製作したシーメンス社のノウハウをもとにして、Statoil社が協力しながら開発を加えています。たいへん安定しており、実際に海上でプラントを見ても、ほとんど揺れを感じませんでした。
洋上風力、特に浮体式の場合でも安全面の対策が大変重要になります。メンテナンスや修理の際の施設への接岸方法や作業での海への転落防止や転落時の対応など様々です。
また、運転やメンテナンスの要員については、特別な訓練が必要です。メンテナンスなどに係わる要員は、すでに、デンマークで訓練を行っています。海への落下を想定して、ボートやヘリコプターでの救難訓練も行いました。
4.Hywindの技術開発について
(1)浮体式風力システムのカテゴリー
一般に、浮体式は大きく3つのカテゴリーに分けられます。HywindはそのうちSPAR-BOUOYに入ります。この方式の特徴は他に比べ安定性がよいことです。上下の揺れを含めて少ないといいます。
(2)次世代Hywind
すでに次世代のHywindのスタイルが決められつつあります。
HywindUと呼ばれるもので、形をややコンパクトにして、全体として長さが少し短くなる予定です。
具体的には、羽根の直径が80mから100mと大きくなり、タービンは3MWと大型化する予定です。一方で、これまでの運転の経験などから、全体を支える基礎部分を最適化し長さを短くするようです。この結果、全体が軽量化し、最大のコスト要素である鋼鉄の必要量が減ってコストダウンにもつながるといいます。
(3)設置
設置の簡便さが浮体式の洋上風力で特徴なことの一つです。
設置の流れは以下のとおりです。
・部分の組み立て
それぞれの場所で完成され、あとは設置される現場まで運ばれてきます。タワーについては、タワー下部と基礎部分、タービンを取り付けるタワー上部との2つに分けられ取り付け前に作り上げておきます。
・運搬
タワー部分はもともと浮体式なので、海に浮かべて比較的小さなタグボートで現場まで運ばれてきます。
・設置
現場での設置は、着床式のそれとは大きく異なります。比較的小さな船のクレーンで対応できます。バラストをうまく使いながら、タワーを立てるのが1日の作業。特別のクレーン船はいりません。さらに、3隻のクレーン船を使ってタワー上部と羽根を1日で取り付けます。最終的な完成作業も1日で済むといいます。別に、アンカーの設置は2〜3日必要です。
(タワーを洋上で立てる作業)
(タワー上部と羽根などの取り付け作業)
着床式の場合は、特殊なクレーン船が必要となります。タワーを海底に打ち込むのも大きな作業です。実際に海上での作業は、いつも天候に左右されます。いわゆる「待ち時間」が大きくコストに影を投げます。浮体式ではこれが安くて済むという大きなメリットがあります。
今後の設置ターゲットは、海の深さ(100m以上)、風、波、海流、岸からの距離、インフラなどを考えていくつかに場所を絞っています。
有力プロジェクト候補
有力なのがアメリカの東西の両海岸。北欧からイギリスかけて。もうひとつが日本。このほか、スペイン、南米、ハワイが魅力的といいます。具体的には、アメリカ東海岸のメイン州、スコットランド沖、スペインの北海岸、そして福島県沖などが検討されています。
(1)技術的な特徴からくる強み
・シンプルな技術とシンプルな構造
使っている技術は、ほとんどが従来からのものです。それを新しい形で利用しています。基本的に特許は必要としません。シンプルイズベストの精神です。
・組み立てと設置の容易さ
設置にあたって特別なクレーンも必要なく小さなもので構いません。船も特殊な船は必要ありません。設置の日数も少ない。設置時の天候待ちのコストも削減できます。同様に、設置後でも別の場所に運ぶことができ、よい場所を求めて移動することも可能です。
・海底の状態に左右されない。
結果として、海底の状態に左右される着床式は、それぞれの場所によって個別に設計しなくてはなりません。浮体式は場所に左右される部分が少ないので、例えば係留部分を除いて、簡単に設計をコピーできます。
(2)技術以外の強み
・豊富な洋上の経験
Statoil社は、石油採掘で洋上施設への経験が豊かです。また、当然のことですが、Hywindプロジェクトそのもので2年半の経験があります。この間、各所に取り付けたセンサーで豊富なデータを集めており、同社しか持たないデータとなっています。
・地元への貢献、ローカル社会との共存
Statoil社の担当者が、これも繰り返して強調していたのが、浮体式がローカル社会との共存にふさわしい技術だということでした。
風力発電設備関連の産業は概して、多くの部品を必要とすることから、雇用効果が高いと言われています。それに加え、浮体式では、製造だけでなくメンテナンスも含めて、特に複雑な設備を必要とせず、基本的に地元で賄うことができる部分が大きくなっています。
(3)課題と対応
・海の深さ
当然のことながら、100m程度以上の深さが必要となります。基本的には、深さは着床式との住み分けの基準と考えるべきでしょう。
・コストの問題
現状では、1基を作っただけでコストは高くなっています。
コストの35%はタービンなので、ここは着床式と変わりません。よって、浮体式固有の基礎部分やアンカー関係などがコストダウンの対象となります。前述したように全体の構造を軽量化することで基礎部分を含めた材料費の軽減を図るなど、今後の努力が必要となります。ただ、大量生産によるコストダウンは十分可能でしょう。
・日本に固有な課題
頻度が高く、強いと言われる雷は課題の一つかもしれません。台風は、場所を選ぶ際に大きな検討材料になる可能性もあります。
以上
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