2012. 3.25 世界初の本格的浮体式洋上風力発電施設をノルウェーに見る。
☆Hywind視察記
○オスロからスタバンゲル、そして出港
3月13日火曜日午前8時20分、オスロ発の飛行機でHywindに最も近い都市スタバンゲルに向かう。1時間余りでスタバンゲル空港へ。スタバンゲル市は人口12万人ほど、それでもノルウェーでは上位の大都市となる。ノルウェーの西海岸のフィヨルド地帯の港町で、古くはイワシなどの漁港として栄えていた。今はスタットオイル社の本社があるように石油開発の町として知られている。
フィヨルド観光の基地の一つとしても有名で、多くの観光客が毎年訪れる。春から秋の観光シーズンのために港には観光船が並んでいる。フィヨルドの特徴である広くそして深く切れ込む港湾には、石油掘削のプラットフォームやパイプラインの製造の施設が海に沿い散らばっている。
午前11時。我々を乗せた双胴の観光船が港を出発した。90人乗りとかなり大きい。この船もご多分に漏れず観光シーズンには観光船として活躍している。天候はやや深めの曇り。明け方には雨が降っていたかもしれない。運がいいことに風は弱い。このシーズンのノルウェーは天候が変わりやすいという。つい3日前は嵐と聞いた。
深い港湾を抜けるには、思ったより長い時間を要した。およそ、1時間、両岸から陸地が見えなくなり、本当の海洋、北海に出る。進むのはおよそ北西の方向。風はそれほどではないと思うが、船がだんだん揺れ始めた。海に詳しい人に尋ねると波の高さは1m位らしい。素人には高さもよくわからない。今、沖に向かうのは風に向かうのと同じ意味ということで上下の揺れがだんだん激しくなってきた。それでも船の揺れは同じく1m程度か。船に慣れている同乗者によれば、遊園地のアトラクションみたいなものだと笑う。一方で、早くも気分が悪くなる者が出始めた。
揺れに合わせて体を動かしながら、頑張って顔を上げると、波の奥に風車の羽根が小さく見え始めた。出港から1時間半弱くらいか。確かに羽根はゆっくり回っている。10分ほどでみるみる大きくなる。全員で階段を上がり、デッキに出た。
○まるで揺れない浮体式
風に向かっているせいで正面にかなりの圧力を感じる。それでも数mの風なのだろう。波のしぶきも少し飛んでくる。縦揺れもあるので、さすがに手すりにつかまっていないと倒れそうだ。
風車ははっきりと目の前に立っていた。それもしっかり。全く揺れていないようにしか見えない。我々がこんなに動いているのに、微動だにせずと言ってもおかしくない。残念ながら着床式の洋上風力をこの目で見たことがないので、比べようもないが、まるでしっかり海底に固定されているように感じる。浮体式と聞いていたので、少しは揺れるものだと思い込んでいた。昨日聞いた数字では、揺れ幅は2〜3度以内に保たれると聞いた。黄色い腐食防止塗料の部分が海面から大きく顔を出す。もちろん、波をかぶるのでタワーに対する海面は上下している。
タワー全体が風に向かってやや後ろに倒れているようにも見えた。Haarr氏も気づいたようで、少し首をかしげる。アンカーの関係ではないかと推測を話すが、実際のところはこの場ではわからないらしい。
風車までの距離は100mを少し超える位だろうか。思ったより小さく見える。海上に出ている高さは80mほどというから、地上ならば見上げるように感じるはずである。
昨年のHywindの運転実績は50%ということだった。通常のオンショア(陸上)の風力の場合は25%程度で30%を超えると高効率という評価となる。洋上ではもちろんさらに良い風に恵まれることが多く、35%から40%と言われている。もちろん、実際に発電している洋上風力は、このHywind以外はすべて着床式なので。この数字は着床式の平均と同義だ。浮体式のHywindの実績は、大きくこれを上回る。
同行者が「陸上の倍ということは、コストが倍でも見合うということになるのなあ。」とぽろっと漏らす。
ただし、同じノルウェーで陸上風力を運営する会社から来た別の同行者は、ノルウェーの風は良いのかも話した。さらに地理的な条件を見る必要があるかもしれない。
○漁業との共存
この場所への設置を決める際にも、漁業関係者と何度も対話を繰り返したと強調する。特にトロール漁業との関連が大きい。どの場所で何が捕れるか、どう、漁業への影響を小さくするかなど長い話し合いの末に、最終的に設置する位置が決まった。今は風車が1つだけだが、仮に何十もの風車が並ぶウインドファームとなっても、風車同士の間隔は1kmほどもある。事前に状況を把握してさえいれば、風車の間での漁業も可能だと、Haarr氏は海を指さしながらやや声を強めた。洋上風力は、さらに発電した電力を送る海底ケーブルでも漁業と対立する。ここでは電力は10km離れた島に海底ケーブルで送られている。ただし、それは直線距離であって、漁業の邪魔にならないように、漁場を避けるように曲がりくねって海底を這わせているため、実際には倍の20kmのケーブルとなっている。
船は、Hywindをもう一周回って20分ほど時間を使い、今度は風を背に受けながら、風車に別れを告げた。スタバンゲル港へと向かう。だんだん小さくなる風車と白く残る船の航跡、泡立ちのやや左にノルウェー国旗が強く船尾にたなびく。
しばらく走ると、船の左に島が見える。離れているので全く様子はわからないが、ここまでケーブルがつながり電力を島に供給しているという。島の人口はわずかで、電気は十分過ぎるほど、余った電気はさらに陸地へと送られている。 また、島の住民うち2〜3人がHywindのメンテナンスのために船を出すなどの手伝いをしている。少人数といっても貴重な雇用であり、島の人たちはHywindのことを誇りに話すとHaarr氏は自慢げに語った。
これが、Hywindプロジェクトに関わる人たちが昨日から繰り返し話すもうひとつの事柄だった。ローカルへの貢献だ。島を後ろに送りやると今度は同じ左側のずっと奥に、わずかに陸地が見えてきた。確かに建物も窺える。これがHywindのメンテナンスの現地基地。メンテナンスの船などもそこから出ているという。
浮上式の洋上風力と着床式の違いは、実は地元とのつながりと関係している。浮上式はよりローカルな方式だというのだ。例えば、建設時点から違っている。着床式は海底にタワーを打ち込むために、特別な船が必要となる。大型のクレーンを乗せた特殊船舶がタワーを垂直に支えている必要がある。一方、浮上式の場合は、組み立てたタワーを近くまでタグボートなどで引っ張って行き、あとはバラストを使いながら立て、アンカーと結びつければよい。船は特殊なものでなくてよいという。船が特殊であれば、どこにでもあるというわけにはいかない。大都市とのつながりが切り離せない。現在、ポーランドなどの近郊の造船所や遠くは韓国へと発注されているこれらの船舶はこのためのものだ。特殊船舶が中央での調達なら、浮上式ではローカルにあるもので賄えるということになる。地元の町で調達できれば、地元も潤う。
少し離れるが、浮上式なら、タワーを立てるのも、設置するも1日で済む。着床式でも2〜3日らしいが、海上での作業は、海が静まるまで作業が止まる「待ち」が必ずある。同じ待つのでも、特殊と普通では費用が大きく違ってくることになる。
さらに、風力施設のそれぞれの部品を見ると、浮上式の方が総じて単純だそうだ。よって、ローカルの場所に製造基地を置くことができる。極端に言えば、町工場でもできる部分が十分に残る。このローカルに役立つエネルギープラントという文句も、スタットオイル社の売りの一つということになる。
○視察の最後に
帰りは追い風ですいすいと船が走った。気分を悪くしていた同乗者の顔もやや落ち着いてきたようだった。トータル3時間弱、私にとっては久しぶりの小型船での船旅はようやく終わりとなった。
なにより、風車の安定性の良さに驚き、単純に海上にぽつんと、しかし力強く立つ人間の製造物になぜか深く感動した。
同行者の中には、これが2回目の視察という方が複数いた。前回は実は波が強くてほとんど近づけなかったと打ち明けた。「あなたは運がいい。」と、彼らからもHaarr氏からも言われ、単純に嬉しかった。はるばるスタバンゲルまで来たかいがあったと胸をなでおろした。
以上
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