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日本再生可能エネルギー総合研究所は、再生可能エネルギー普及のための情報収集と発信を行っています。

リポートReport

 2012. 1. 24 ニュース特集・・・
            再生エネの特徴が見える2012年年始の欧州発ニュース3連続ピックアップ
            〜解説:再生可能エネルギー電力の不安定性の実際とその対応策
                                    

  1.昨年12月のドイツの風力発電量が急増して新記録〜原因は荒天

 12月のドイツの風力による発電量は80億kWhで、月間の記録としては過去最高となったことが明らかになった。これは、1年間の水力による発電量のほぼ半分の規模にあたる。風力発電による電力量は2011年の年間では443億kWh2010年は336億kWh)となった。最大の原因は12月初めに低気圧が続いて荒天となり、強烈な風をもたらしたためである。
1月5日(IWR: International Wirtschaftsforum Regenerative Energien 国際再生可能エネルギー経済フォーラム

  2.ドイツの電力グリッドが、オーストリアの停止発電所に電力を緊急要請

 昨年12月の初旬、ドイツの電力グリッドオペレーター会社Tennetは、オーストリア国内の停止中の発電所に電力供給の緊急要請を初めて行った。南ドイツの大きな電力需要を補うためで、原発の停止もその原因のひとつである。

 一方で、北部ドイツでは12月の風力発電量が嵐などの天候条件によって、例年の2倍以上を記録した。風力発電からの電力をグリッドにつなげるために、逆に中部や北部ドイツの石炭や天然ガス発電所が緊急停止される事態にもなっている。ただし、北部ドイツから南部への電力の移動がうまく行われていれば、問題は起きなかったとしている。 Tennetによれば、グリッドでの電力供給の緊急調整は、昨年の309日で990回も起きており、これは一昨年2010年に比べ3倍となっている。
1月12日(Renewables International

3.ドイツの再生可能エネルギー電力の急増が、チェコの電力グリッドに悪影響か

 
12日に、チェコの唯一の電力グリッドオペレーター会社CEPSがクレームを発したもので、ドイツのグリッドの再生可能エネルギーに関係する「コントロール不能な電力の流れ」によるとしている。ドイツの再生エネの伸びが東に隣接する諸国のクレームを呼んでいるという。具体的には11月下旬から12月中旬にかけて通常の電力量より1000MW多い電力が国際グリッドに流れ込んだ。主な5つ原因のうち3つはドイツで、1.北部ドイツの風力発電が過剰な電力を生産したこと、2.春に起きた17基中7つの原発の停止、3.太陽光の発電能力の突然の増加、を上げている。
 風力発電と同様に、ドイツでは過去2年の間に太陽光による発電能力が15GW増加している。CESPは、グリッド上の混乱を避けるためには電力輸送ネットワークの早急な拡大が必要であると語っている。

 ○ 解説:再生可能エネルギー電力の特徴が表面化

 今年冒頭のこれらのニュースは、再生エネ電力の特徴をよく表しています。
 簡単にまとめると、
  1.発電量が自然の変化によって大きく左右されることがある。
  2.その結果、グリッド内外の電気の流れに影響を及ぼすことがある。
  3.このため、今後も適切な対策が求められる。
ということになります。

 これまで言われてきた再生エネ電力の特徴的な事象が、年末のヨーロッパで実際に発生したわけです。
 再生可能エネルギーはもちろん万能ではありません。化石燃料や原発によるものと同様、それぞれ長所も短所も持っています。不都合なことには触れないというのではなく、積極的に明らかにしたうえで対応策を検討することこそ、今求められていると考えます。

 なぜ、この時期に、ドイツを原因の中心としてそれが起きたのかなどの分析は、今後の日本の再生可能エネルギーの導入と普及にも役に立つと思います。ここでは対応策も含めて考えてみます。
 項目は次の2つです。
  1.なぜ、再生エネ電力の特徴的な事象が年末に表面化したのか
  2.必要な具体的対応策と技術

 ○ 解説:なぜ、再生エネ電力の特徴的事象が年末に表面化したのか。

 ドイツでは、昨年2011年の前半初めて再生可能エネルギーからの発電量が20%を超えました。
 これに最も寄与したのは太陽光発電で、2012年からのFITの電力買取価格が15%値下げになるため、「駆け込み需要」も大きく影響しました。また、風力発電やバイオマス発電も順調に伸びています。
 
・天候異変の年に左右される再生エネ発電量
 
さらに年末に起きた自然現象は、再生エネ電力の特徴のひとつを最もわかりやすく引き出しました。嵐が風力発電の風車をびゅんびゅん回して通常の倍以上の電力を稼ぎ出したのです。これがまずはドイツのグリッド内に大量の電力を供給する原因となりました。一方、昨年前半の20%越えの大きな要因のひとつに、春に晴天が続いたことで太陽光の発電量が増えたことがあげられ、こちらも天候の影響を示しています。

再生エネ電力の20%越え
 再生エネ電力の拡大はいずれ年末のような事象を起こすと予測されていました。一昨年あたりからもう少し小さい規模で似たようなケースが起こり始めていました。ドイツでは再生可能エネルギー電力を優先買取り・接続することが義務付けられています。ただし、グリッドに大きな影響がある場合は調整できるという例外条項があり、2010年以降、調整回数が急に増え始めました。今回の事象は、確かに天候異変が大きな契機でした。しかし、再生エネ電力の20%越え(裏返すと原発の停止もそれに寄与しています)によって、いよいよ安定システムが限界に近づいてきた証拠ともいえるのです。
 
・調整を超える発電量と国外を巻き込む影響
 ドイツがこれまで再生エネ電力による影響を抑えていられたのは、北は北欧のNordpoolから南はポルトガルやスペインの電力市場まで広い範囲で電力の融通ができていたことでした。この点でもそろそろ難しくなってきたことが、今回のチェコへの影響に現れたのだと思われます。ドイツはヨーロッパ最大の経済大国で発電量も電力の使用量も群を抜いています。20%というパーセント表示だけでは判断できない影響力を持っているのです。

  
以上の3点が問1の答えということになります。

 ○ 解説:再生可能エネルギー電力の安定化に必要なこと

 3番目のチェコのニュースの発信社も悪影響発生を断定はしていません。「か」という一文字を追加したのはそういう意味です。「制御不能な電力の流れ」つまり具体的には周波数の変調に対して、警戒を呼び掛けているのです。
 さらに、ドイツの電力ネットワーク管轄官庁も、電力網の信頼性は高いままだと語っています。今回も、一種特殊状況下での事象であり、停電などの決定的な「事件」には至りませんでした。しかし、チェコのグリッド会社が指摘しているように、早急な備えが必要なことも間違いないでしょう。考えられる備えの多くは取り上げたそれぞれのニュースに示されています。

 
 対応策を3段階のフェーズで考えると、
  1.個別のグリッドに上げるまでの対策
  2.国内レベルのグリッドの対策
  3.国際レベルなグリッドの対策
ということになります。

個別のグリッドに上げるまでの対策 〜発電量コントロールと電力貯蔵システム
 一度に予定していない電力が大量にグリッド(ネット)に入り込むとトラブルを起こす可能性があります。
 一番単純な対策は、グリッドに送る電力を発電側で一次的にコントロールすることです。たとえば、ドイツのあるメガソーラー施設では、発電量が過剰になった場合でもグリッドに影響を与えないように、60%、30%、0%と3段階の送電切り替えシステムをすでに持っています。
 また、個別のグリッド内で電力を融通しあってやりくりしたうえで、グリッドに上げたり、グリッドから電気を受けたりする方法もあります。回りくどい言い方をしましたが、これがまさしく「スマートグリッド」の考え方です。スマートグリッドには全体の消費電力を抑えるという役割も期待されています。

 もうひとつ注目されているのが、作り過ぎというか、出来てしまって余った電力をいったん貯めておき、必要な時に使うという「電力貯蔵システム」です。一番ポピュラーなのは「揚水発電」でしょう。余った電力で水を高いところに運び上げ、電気が必要なときに水を落として発電します。容量も大きいため現状では一番現実的な技術といえます。原発は運転レベルの上げ下げが難しいため、日本でも揚水発電で夜間の過剰電力を貯蔵しています。これは、同様に再生可能エネルギー電力でも利用可能です。
 電力の新しい貯蔵技術は、今後どの国でも必須になるでしょう。ここに至るまでややのんびり構えていたドイツも、近年スマートグリッドの実証を本格化させ、さらに新しい技術の開発・実証に全力を挙げ始めました。今回は、技術内容を細かく取り上げるつもりはありません。ここではリチウムなどの「蓄電池」の他、余剰電力で水を電気分解して水素の形にして、燃料電池などで再び発電するやり方など「水素貯蔵」が注目されていることを例示することにとどめます。(注目の技術などは、次回に。)

国内レベルのグリッドの対策 〜国内送電網の充実
 2番目のニュースで実施されたことが、緊急ではありますが、対策となっています。グリッドのオペレーターが域内の火力発電所や天然ガス発電所の稼働をコントロールして問題発生を乗り越えたという実際の対応です。さらに、現状ではインフラがまだ不備ということで、実現はしませんでしたが、ドイツ国内(北部から南部へ)の送電網の容量がもっと大きければ今回の騒ぎは起きなかったことも明らかになりました。
 ドイツの場合、海に近い北部には大工場など大口の電力需要者がおらず、風力発電の多い北部から需要者の多い中部や南部までの送電が必要です。今後はさらに洋上風力発電が増加することは決定的です。今回の嵐による急激な発電量増加が起きなくても大きな容量を持つ北から南への送電ラインが必須となるのです。すでに、大手電力会社が巨額の支出を決め、インフラ整備を始めています。
 ここは、日本にとっても大きな検討ポイントです。地域独立型の日本の電力会社体制では、電力供給の地域完結を目指すあまり、地域間の送電インフラに弱点が残りました。震災後に東電管内で電力不足が起きている一方で、他の電力会社は電気を余らせているという事態が起きました。50kz・60kz問題は別にしても、たとえば、北海道から本州へつなぐ送電線の容量が小さく十分な送電ができないという実態があります。この結果、最も風力発電の適地が多い北海道で風力発電の施設が一定以上は増えない、増やせないと言われています。インフラに係わるため巨額な資金が必要ですが、費用対効果は大きいと考えられます。

・国際レベルのグリッドの対策 
 前述したように北欧各国は、Nordpoolという電力マーケットを持ち送電インフラと合わせて電力のやり取りを日常的に行っています。広く電力の融通を行うことで価格と電力受給の安定化を図っているわけです。各国のグリッドを結ぶラインをさらに太くすることも対策の一つとして必要でしょう。ただし、果てしない対応が求められることないと考えます。スマートグリッドや電力貯蔵システムの実現でグリッドの外への影響は十分抑えられることが可能だからです。

・日本が学ぶこと
 今回ヨーロッパで起きた事態は、将来の予兆であることは間違いありません。ただし、現在の技術や制度の工夫を含む対策で十分対応できると考えます。極端に恐れたり、ためにする批判を繰り返すのではなく、前向きな議論が望まれます。また、これらの実現には、発送電分離など実効ある電力の自由化も含めて、全体電力システムの早急な検討が同時におこなわれるべきことも書き加えておきます。

  以上

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